病院の機能、「二重評価してもいい」
2010年度の診療報酬改定に向け、病院が持つ機能によって診療報酬に格差を付ける「新たな機能評価係数」について検討している中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会は3月5日、これまでの議論で挙がった約50項目を絞り込む作業を開始した。意見交換では、診療報酬の点数を上げる「係数」として新たに評価した場合に、「重複評価」になってしまう項目に議論が集まった。医療安全対策に関する評価が低いことを問題視する意見に関連し、「明らかに病院の機能を評価する係数なら二重に評価してもいい」との意見もあった。(新井裕充)
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DPCの導入「選択肢から踏み絵に」 病院が持つさまざまな機能のうち、診療報酬で優遇すべき項目の選定をめぐっては、昨年12月17日の中医協・基本問題小委員会で、「急性期を反映する係数を前提とする」「DPCの導入により、医療の透明化・効率化・標準化・質の向上などが期待できる」など、7項目の「基本的考え方」が承認されている。
中医協の下部組織でDPCについて専門的に検討しているDPC評価分科会(分科会長=西岡清・横浜市立みなと赤十字病院長)は、この「基本的考え方」に沿って約50にわたる個別項目を洗い出し、2月25日の中医協・診療報酬基本問題小委員会に提示。これらの項目を絞り込む方向で検討を続けることについて了承された。
さらに、項目を絞り込む際の基準として、▽「基本的考え方」と合致する▽現行の「DPCの影響評価に関する調査」を活用できる▽ 現行の機能評価係数や出来高部分と重複評価する可能性がある項目を整理する―の3点を考慮することについて承認を得た。
これを受け厚労省は3月5日、DPC評価分科会を開催。「基本的考えと合致する項目か」「DPCデータを活用できる項目か」「重複評価になってしまう項目か」の3点を加えた「具体的な項目の提案」(項目表)を示し、意見を求めた。
意見交換に先立ち西岡分科会長は、「実際には、すべての項目を10年度の診療報酬改定で採用することは無理ではないか。前回の会議でも申し上げたように、すべての項目を採用することにはならないことをご了解いただきたい」と確認した上で、項目の絞り込み作業を進める方針について次のように提案し、了承された。
「(中医協の)小委員会では、調整係数の廃止を段階的にすべきとの意見が多いようなので、新たな『機能評価係数』を段階的に導入することも考えられる。その場合、今回の議論によって候補とならなかった機能評価係数の提案については、12年度以降の診療報酬改定で再度、検討できるものと考えている。今回、整理した項目の中からまず、10年度改定の候補として、既にデータがあるものや、しっかりしたデータの裏付けができるような項目を優先的にご議論いただけたらありがたい。こういう方向で議論を進めてよろしいか」
この提案に対し、委員から異論は出なかった。しかし、厚労省が今回示した項目のうち、「DPCデータを活用できるか」という基準は多くの項目がクリアしているものの、「重複評価の可能性」をクリアしている項目は少なかった。
■「重複評価」で議論
意見交換は、厚労省が示した項目表の「透明化の評価」「効率化の評価」など、中項目ごとに行われた。この中で、DPCの係数として評価すると、出来高払い方式の加算などと「重複評価」になってしまう項目が議論になった。
「医療安全と合併症予防の評価」の項目で厚労省は、「重複評価の可能性」の例として、「入院基本料の施設基準では、医療安全管理体制の整備を要件としている」「例えば、A234医療安全対策加算で、既に機能評価係数として評価されている」を挙げた。
西岡分科会長が「二重評価の項目を(係数として)採用することは難しい」と述べたところで、医療安全に掛かるコストを係数で評価するよう求める声が上がった。
小山信彌委員(東邦大医療センター大森病院心臓血管外科部長)は「(医療安全対策加算)はあまりにも評価が低過ぎる」と主張し、坂巻哲夫委員(群馬大医療情報部教授)も「明らかに病院の機能を評価する係数なら二重に評価してもいいのではないか」と同調した。
これに対し、厚労省保険局医療課の宇都宮啓企画官は次のように述べ、「重複評価」について3種類の考え方を示した。
「今回、重複評価の可能性があるような項目を列挙したが、考え方として、『加算は付いているが、さらに機能評価係数でも評価する、つまり二重評価を認める』というやり方もあるし、あるいは『二重評価になるので、出来高の場合は加算にするが、機能評価係数にする場合には、加算を外して機能評価係数として評価する』というやり方もある。そうすると二重評価にはならない。それから、『全く機能評価係数として認めないというやり方』と、大まかに言って3種類ぐらいある。それぞれの場合が考えられるので、『ここに載っているから全部駄目だ』とか、あるいは『良いとなれば全部二重評価にすべきだ』ということではない」
■後発医薬品の使用状況を評価するか
「効率化の評価」では、後発医薬品の使用状況を評価するかどうかで意見が分かれた。佐藤博委員(新潟大教授・医歯学総合病院薬剤部長)は、後発品の普及のためにDPCで使用状況を評価することを改めて要望したが、坂巻委員は「DPC制度では効率化よりも医療の質の評価に重きを置くべきなので賛成できない」と反対した。
松田晋哉委員(産業医科大医学部公衆衛生学教授)は、後発医薬品の使用状況の「公開」を係数として評価することを提案したが、相川直樹委員(慶應義塾大医学部教授)が「公開すると先発品を使用している病院に患者が集まり、逆に後発品の使用が進まなくなる」と述べるなど、意見を集約できなかった。
「標準化の評価」では、「手術症例数または手術症例割合に応じた評価」が議論になった。オブザーバーとして出席した全国自治体病院協議会の邉見公雄会長は、地域格差の問題を指摘。「分母(患者数)が少ない地域では問題。04年度の改定で手術件数が施設基準になったが、田舎では食道がんなどクリアできないものがある。数の絶対数で評価することには問題がある」と反対した。
これに対し、宇都宮企画官は「この係数は『必ずこれが取れなきゃいけない』というものではない。大学病院のような高度な(機能を持つ)病院が取りやすい係数と、地域の病院で取りやすい係数、それぞれある。『(機能評価係数を)マイナスの係数にはしない』との合意は頂いているので、そういう観点でお願いしたい」と理解を求めた。
■研究・教育の評価を求める声も
「社会的に求められている機能・役割の評価」の「特殊な疾病等にかかる医療の評価」では、「副傷病による評価」について議論。「高度な機能による評価」では、研究や教育などの機能を評価すべきとの意見があった。
池上直己委員(慶應義塾大医学部教授)は「研究や教育に掛かる財源は保険財源ではなく別の財源で対応すべき」との主張を繰り返したが、小山委員は「教育は結果的に患者さんの恩恵になるものなので、そこに投資してもいい」と反対。嶋森好子委員(慶應義塾大看護医療学部教授)も、「卒後教育など、質の高い職員を育てるためのお金をどこかで保障する必要がある」と述べた。
宇都宮企画官は「大学院生など、教育関係の省から補助金をもらっている場合の教育と、臨床の部分の教育、医療保険的な教育とをうまく仕分けできるのかなどをクリアにしていただかないと、この議論は難しい」と述べ、明確な回答を避けた。
このほか、「地域医療への貢献の評価」では、救急・小児救急医療の実施状況による評価が議論になった。また、医療機関からのヒアリングで出された「診療機能に対する評価」として、原正道会長代理(横浜市病院事業管理者病院経営局長)は「死因究明」(剖検)を評価する必要性を訴え、他の委員からも賛成の声が上がった。
次回会合では、この日の議論を踏まえて修正した資料を基に、項目を絞り込むための検討を継続する予定。
更新:2009/03/05 22:15 キャリアブレイン
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