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社説:視点 東京中郵高層化 歴史的建造物は地区保存も=論説委員・今松英悦

 日本郵政グループが計画しているJR東京駅前の東京中央郵便局再開発に鳩山邦夫総務相が、「トキを焼き鳥にして食べるようなものだ」と異議を唱えている。4日も抜き打ちで視察し、開発計画の続行を表明している日本郵政をけん制した。昭和初期の文化的価値の高い歴史的建造物であり、部分保存では不十分という主張だ。

 総務相には地上38階の高層化計画の変更や中止の権限はない。また、日本郵政グループの郵便局会社は東京のほかに大阪や名古屋など、JR駅前の局舎を高層のテナントビルにすることで、経営安定化を図りたい。東京中郵再開発により期待できる年間、約100億円の営業利益が消えれば打撃は大きい。

 ただ、この計画を含めて日本の都市再開発で、歴史的建造物の保存や景観への配慮が十分なのかというと、否と言わざるを得ない。東京では再開発地域全体を高層化し、東京の世界都市機能を高めていくことが、80年代以降の規制改革の狙いだ。

 たしかに、東京駅周辺でも部分保存が一般化しているように、日本郵政もそれ相応の配慮はしている。ただ、この地区全体の再開発で、歴史的建造物の保存は主要テーマではなかった。当然、街区全体を保存するといった発想はなかった。

 日本郵政が再開発計画作りに際して設けた7人の建築家が入った歴史検討委員会は、歴史的建造物として高く評価し、「現位置にできるだけオリジナルを保存すること」を提言している。同時に、補足意見では鈴木博之東京大教授や藤岡洋保東京工業大教授が全面保存を主張した。全面保存も検討すべきだという意見もあった。

 報告書は都市再開発は機能の追求のみに走ってはならないと読むことができる。都市再開発に際しては、地区全体の街並みの価値や景観も勘案した計画の策定を求めているのだ。

 東京中郵を含めた丸の内地区は典型的な業務地区である。全体を再開発によりインテリジェント化された高層オフィスビルに作り替えることこそが、街としての国際競争力を高めるという発想がこれまでの再開発を貫いている論理だ。

 それだけでいいのか。丸の内は日本の近代化の中で形成された歴史的街区でもある。そこに価値を見いだした再開発も可能だったはずだ。現実には、その方向は困難になっている。それならば、全国の再開発計画を歴史や景観の観点から再点検するきっかけにしてはどうか。機能一辺倒の街づくりから抜け出す手掛かりとなるだろう。

毎日新聞 2009年3月6日 東京朝刊

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