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社説:全人代 中国の内需拡大に期待する

 中国で全国人民代表大会が始まり、温家宝首相が政府活動報告で、8%前後の成長維持にかける政府の決意を表明した。

 温首相はしばしば国際金融危機に触れた。内需拡大による中国の景気回復と、世界経済の再生とが結びついているとして国際協調の必要と中国の責任を強調した。

 中国は今年建国60年の節目を迎える。昨年、世界第3位の経済規模になり、威信をかけた北京五輪を成功させた。

 抗日戦争、国共内戦の荒廃と文革の混乱から実質わずか30年で、貧困国が世界一の外貨準備保有国に成長した。この実績によって国際社会における中国の政治力も急速に高まった。

 本来なら胡錦濤政権は今年から、次の発展段階を目指し、貧富の格差を是正し、医療や年金など民生の安定をはかり、「調和のある社会」建設にコマを進めるはずだった。

 そこへ国際金融危機のツナミが押し寄せた。輸出産業が大打撃を受け、経済成長に急ブレーキがかかった。中小企業の大量倒産で「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者が大量失業した。不況で新卒者の就職が難しくなった。福祉政策の財源となる地方政府の財政収入も下がり始めた。

 温首相の掲げる「8%成長」は、経済成長を予測してはじいた数字ではない。中国では、8%前後を維持できないと、毎年増え続ける求職人口に雇用を提供することができず、失業者が滞留して社会不安が広まるとされている。絶対に実現しなければならない政治的な目標である。実現は容易ではないと経済専門家は予想している。

 昨年の全人代で温首相の行った経済演説は、引き締め基調だった。それが今年は一転、赤字国債を発行し、2年間で4兆元(約57兆円)の財政出動で内需拡大を図るという。どうやって消費拡大を実現するのか。

 世界の景気浮揚のけん引車として中国に期待を寄せているのは米国だけではない。日本の最大の貿易相手である中国の景気回復は、日本経済にも直結する。

 温首相は、農村や都市貧困層の所得の向上、福祉の構築への予算投入を指示している。内需拡大によって社会の格差を縮め「調和のある社会」を目指そうとしている。環境保護と省エネ技術への投資を呼びかけている。温首相は国民から厚い信頼を得ている。強力なリーダーシップを期待できるだろう。

 それにしても不思議なのは軍事費の増加だ。成長を維持できるかどうか、国が岐路にあるというのに、国防費だけは前年度実績比14・9%と21年連続2ケタ増になった。台湾問題は中国にとって有利に進んでいる。温首相の外交は「全方位外交」だ。なのに軍事費が増える。共産党指導部が軍の要求を抑制できないのではないか。

毎日新聞 2009年3月6日 東京朝刊

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