「ジャパン・ぺーパー」の警告 流動化進まぬ不良債権 米政府、いらだち深める
日経新聞2001.1.13 News反射鏡 編集委員田村秀男著
「うま年で思い出したが、日本人はガリバー旅行紀を読んだほうがいい」と知日派の米国人が薦める。ガリバーは最後の冒険旅行で知性と理性に満ちた馬「フウイヌム」が支配する国に漂着した。馬は欺嚇(ぎまん)と暴力の野蛮人間「ヤフー」を隔離支配し、ときおり家畜として使役し、国は栄え安定している。ガリバーにとってはフウイヌム国が理想の国で、永住したいとさえ願った。
ガリバーと同じくフウイヌム国を評価するこの米国人は二つの顔を持つ。大手米金融機関の日本法人アドバイザー。もうひとつは米軍予備役である。危機管理のプロとして、不良資産を買い取る米金融機関に日本の裏社会対策を指南するかと思えば、アルカイダ僕滅作戦を進める米軍部隊訓練の指揮にあわただしく出かける。いわばフウイヌム国のヤフー対策前線指揮官である。裏社会が表のビジネス社会に浸透している日本もアフガニスタンもこの人物の目には同じようなヤフー野放しの国に映る。彼ばかりではない。「裏社会の国日本」という見方は米国政府やマスコミ、ビジネス界にかなり定着している。
「日本は自力再建できない」。
今から一年前の米政権移行のとき、ブッシュ・チームが対日政策引き継ぎのためにクリントン政権から手渡された「ジャパン・ぺーパー」にはそう書かれていたという。ぺーパーのかなりの部分は日本の組織暴力団に関する綿密な調査に基づいて、不良債権処理の困難さを分析している。「日本ではやくざが表社会に入りこんでいる」「組織暴カシンジケートにコネを持つ政治家がいる」「裏杜会に取り込まれている宮僚もいる」などだ。
ぺ-パーは国務省、財務省、国防総省、運邦捜査局(FBI)、中央情報局(CIA)など主要機関が競い合うようにして日本の裏社会を調べ上げた成果である。組繊暴力団の舎弟企業の関与で処理、流動化できない金融機関の不良資産の問題に、本腰を入れて取り組む政治家、宮僚はまずいない、とぺ-パーは鋭く突いている。
事実、民間側もさまざまなトラブルを恐れて不良債権買い取りにはちゅうちょする。代わりに米国の金融機関が不良債権を安く買い取る「ハゲタカ・ファンド」を設立して、つまみ食いする。裏社会を寄せ付けないためのノウハウをまとめてマニュアルにしており、汚れた債権をあまり苦にしない。それでも、最近では米国のバブル崩壊で、ハゲタカ・ファンドは日本よりも収益が高い本国への投資に目が向きがちだ。
ブッシュ政権はジャパン・ぺ-パーを重視しながらも、とりあえずは小泉純一郎政権の改革に期待し、後押しする政策をとってきた。確かに特殊法人改革など一定の前進はある。ところが、小泉政権のもとでも肝心の不良債権処理は進まない。裏社会がからむ不良債権をきれいに処理し、流動化する対策を後回しにして、公的資金の注入や超金融緩和や円安容認によるインフレ推進に議論が集中する毎日だ。
ブッシュ政権は日本にいら立ちを深めている。日本要因のために国際金融市場の不安は消えないし、景気低迷でことしの議会中問選挙では共和党の苦戦が必至だ。米国民の支持獲得の点では日本よりも他のヤフー対策がはるかに優先する。アフガニスタンの次はイエメン、ソマリアそしてイラクと反テロ戦争は終わらない。日本はジャパン・ぺ-パーの予測を覆し、不良債権処理の抜本策を断行し、自力再生するしか道はない。
(管理人)なるほどと思わず膝を打つ。そんな人もいらっしゃるはずだ。これは不良債権処理の話だが、暴力団と言えば土建、土建と言えば道路・・・と、ことは「熊の数より人口が少ない地方」での道路建設にも繋がるだろう。警察関係にも悪魔の手は伸びているようだし、警察不祥事の原因にも関係がありそうだ。