AMDが1月に正式発表したYukonプラットフォーム。IntelのAtomを意識したこのプラットフォームはノートPCを主なターゲットに据えたものだ。しかし、こうしたものを使ってデスクトップ向け製品を投入するメーカーが現れることは珍しい話ではない。今回はGIGABYTEが、このYukonプラットフォームを採用したMini-ITXマザーを投入してきた。併せて、組み込み用途向けパーツを使用したSocket AM2対応製品も投入。これらの製品を試す機会を得たので紹介したい。 ●Sempronを搭載したYukonマザー 今回テストする機会を得たYukonプラットフォーム対応マザーは、GIGABYTEの「GA-2AIEL-RH」である(写真1〜3)。170×170mmのMini-ITXに準拠した製品で、この類の製品としては一般的なフォームファクターとなる。写真からも分かるとおり、ヒートシンクは2つで、1つはファンが付いた大型のヒートシンク。もう1つは小型のファンレスヒートシンクである。 大型のヒートシンクの下には、CPUとノースブリッジが搭載されている。CPUはSempron 210Uである(写真4)。シングルコアのAthlon 64をベースにしたCPUで、動作クロックは1.5GHzとなっている(画面1)。これは、組み込み向けにもリリースされており、簡単な仕様はこちらで確認できる。
CPU-Zで見るとコアのリビジョンは「G2」となっている。これは、Athlon 64のLEシリーズで採用されている低消費電力のコアだ。このコアをより低クロック、低電圧で動作させたものがYukonプラットフォームで使われるSempron 200Uシリーズであると推測できる。 チップセットはAMD M690EでサウスブリッジにはSB600を使用(画面2)。追加のグラフィックは搭載しない。よって、M690Eに内蔵されるRadeon X1250相当のグラフィックコアを使用することになる(画面3) メモリはDDR2 SDRAM対応で、1スロットを装備。当然ながらシングルチャネル動作となる。また、Athlon 64のメモリクロックはCPUクロックの整数分の1という仕様になるため、本製品では1500MHz÷5の300MHz(DDR2-600相当)での動作になっている(画面4)。
インターフェイスはPCで使用される一般的なものはおおよそカバーされているほか、SATAやコンパクトフラッシュ、LVDS出力といった組み込み用途を意識していると思われるものも用意される。拡張スロットはPCI Express x4を1スロット備える。コンパクトフラッシュスロットはSB600のIDEコントローラに直結されており、ホットスワップなどが行なえない代わりに、通常のHDDのようにOSを入れてブートアップすることも可能だ。 ちなみに、CPUをSempron 200Uとしたものや、シリアル端子をI/Oリアパネル部に備えるものなど、本製品はさまざまなバリエーションモデルが展開されるようだ。本製品が実際に秋葉原などでお目見えする際には、本稿で取り上げているものとは微妙にスペックが異なることもあり得る点は注意されたい。 ●“Congo”を先取りしたSocket AM2マザー テストに使用するもう1つのマザーは、同じくGIGABYTEの「GA-2AIEV-RH」である(写真5〜7)。同じくMini-ITXフォームファクターに準拠したマザーボードで、Socket AM2に対応するものとなる。 特筆すべきはチップセットで、AMD 780MN+SB700が搭載されることである(画面5)。AMD 780MNとは、モバイル向けチップセットであるRS780Mのコアをベースに、テレビ出力などを省いたものとなる。このチップセットは未発表であるが、Yukonと同時期に存在が公開された「Congo」プラットフォームで採用されるものとなる。 CongoはYukonよりやや上位の低価格ノートPCに向けたプラットフォームで、対応したノートPCは現時点で確認されていない。本製品は組み込み向けのAMDプラットフォームを活用したもの、という触れ込みで借用したものなのだが、スペック面ではCongoプラットフォームを先取りしたものともいえるだろう。 グラフィックはAMD M780Gベースということで、Radeon HD 3200が統合されている(画面6)。コアクロックは500MHz。I/Oリアパネル部にはHDMIも備えている。また、PCI Express x16スロットも備えているので、スペースはあまりないものの、ローエンド〜ミドルレンジの小型カードであれば拡張は可能だ。 インターフェイス周りは先に紹介したGA-2AIEL-RHと同じくCFスロットやヘッダピンによるシリアルポートの搭載などは似通っている。ただ、SATAを6ポート備えている点や、Gigabit Ethernetを2系統備えるなど、機能はより強化されている印象を受ける。
ところで、対応CPUはSocket AM2に準拠したものとなるが、本製品の資料によればTDP 65W以下のシングル/デュアルコアCPUに限定されている。今回のマザーボードと同時にテスト用に2種類のCPUを借用した1つは1.8GHz動作のAthlon 64 X2 3400+(写真8、画面7〜8)。もう1つは1GHz動作のAthlon 64 2000+(写真9、画面9〜10)である。いずれもデスクトップPC向けにはラインナップされていないスペックのCPUで、こちらのPDFに記載されているとおり、これらは組み込み用にリリースされたCPUである。TDPは前者が35W、後者が9Wとなる。
一般ユーザーに単体発売される類のCPUではないわけだが、過去にマザーとCPUがセットになって販売された例もあり、GA-2AIEV-RHと組み込み向けCPUをセットにして販売するとか、そうした環境を組み込んだネットトップ風製品などの登場は十分に考えられる。こうした製品が存在することで、本来は組み込み向けである環境をPCとして活用できることが重要といえる。 ちょっと気になったのはメモリ周りの動作である。本製品はメモリスロットを2スロット備えており、Athlon 64シリーズを用いた場合にデュアルチャネル動作が可能だ。それは良いのだが、問題は動作クロックである。Athlon 64のアーキテクチャでは、CPUクロックの整数分の1のクロックでしか動作しないが、この整数は“5”以上の数字となる。よって、今回のAthlon 64 2000+のように1GHzのCPUを用いた場合は最大でも200MHz動作になってしまうのだ。2GHz未満のCPUの場合は下がる一方になるのは致し方ないのだが、さすがに200MHzともなると、その影響は小さくないだろう。気に留めておきたいポイントだ。 ●インテル環境とパフォーマンス比較 それではベンチマークの結果を紹介していきたい。テスト環境は表に示したとおり。今回の製品の主要なターゲットはAtomプラットフォームとなるので、Atom 230/330を搭載したIntel D945GCLFシリーズを比較対象に据えた。また、Pentium Dual-core E5200も併せてテストしているが、これは厳密に比較するというよりは、わりと手軽に入手できるIntelの廉価なプラットフォームの性能および消費電力とおおざっぱに比較できるように用意したものである。 なお、メモリは2GBで統一し、シングルチャネル環境では2GBモジュール×1枚、デュアルチャネル環境では1GBモジュール×2枚を使用。表中では使用したモジュールの仕様を示している。だが、AMD製品の実動作クロックは先に示したとおりであるほか、Intel D945GCLFシリーズの両製品は266MHz(DDR2-533相当)で動作。このメモリパラメータはDDR2-533時のSPDである4-4-4-12が適用されている。Intel G45環境は400MHz(DDR2-800)の5-5-5-18で動作している。 【表】テスト環境
では順に結果を紹介していく。まずはPCMark05の各スコアとCPUテストの詳細結果である(グラフ1〜3)。 ここではSempron 210Uを搭載したYukonプラットフォームが良い結果を残したといって差し支えないだろう。各パーツのスコアも良好なほか、CPUテストのシングルタスクで非常に良い結果を残している。コア当たりの性能が1.6GHz動作のAtom製品に勝ることは確実といえる結果だ。マルチタスクテストにおいてデュアルコア製品であるAtom 330の後塵を拝するのは致し方ないだろう。
Athlon 64 2000+環境はシングルコアであるうえに、CPU、メモリともに動作クロックが低いこともあって、ほかと比較してパフォーマンスは伸び悩む傾向にある。ただシングルタスクのCPU性能ではAtom両製品に勝る結果を見せるシーンも多く、動作クロックはかなり低いものの、コア当たりの性能は悪くない。また、グラフィックスコアもまずまずで、チップセットの良さが目立つ格好になっている。 Athlon 64 X2 3400+環境は、今回テストした低消費電力/低価格ソリューションのなかでも頭1つ抜け出した格好だ。動作クロックも速く、デュアルコアであるうえ、チップセットに統合されたグラフィック機能もまずまずのものであり、隙がない結果といえる。 続いてはSandra 2009 SP2から、「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ4)、「Cache & Memory Benchmark」(グラフ5)の結果を紹介する。
前者のテストで示されるCPUの演算能力は、Multi-Media Benchmarkの浮動小数点演算で少々傾向が異なる以外は、おおむね先のPCMark05のマルチタスクCPUテストと似たような傾向を示す。コア当たりの性能で見れば1.6GHz動作のAtomよりもSempron 210Uが良好だが、このようなマルチスレッドテストにおいてはデュアルコアのAtom 330に劣るという結果である。 この傾向とは異なるMulti-Media Benchmarkの浮動小数点演算の結果だが、単精度の演算ではSempronおよびAthlonがやや弱さを見せAtomが良い結果を残すが、倍精度の演算ではAtomが非常に遅く、Sempron/Athlonが勝る結果になる。倍精度の演算をハードウェアで処理できないAtomプロセッサの仕様によって、こうした傾向が出たものと想像される。 メモリ周りは目立った結果はないが、Sempron 210Uのコア当たりのキャッシュ性能はAtom 230に勝るが、容量が少ないため早い段階で性能が落ち込み始める点。実メモリはDDR2-533相当のAtomに対して、DDR2-600相当で動作していることからより良い結果を見せている。これはメモリコントローラをCPUに内蔵していることも影響している可能性はあるが、同一クロックの比較ではないので推測の域に留まる。 一方のAthlon 64勢であるが、Athlon 64 2000+の結果はいくらなんでも悪すぎるような印象を受ける。Sempron 210UとAthlon 64 2000+は同一アーキテクチャの製品となるわけだが、キャッシュ性能は2倍近い差が付いている。また実メモリの性能についても、DDR2-400相当という条件になるとはいえ、デュアルチャネルなわけで、理論上の帯域幅はDDR2-600相当のSempron 210U環境を上回る。ところが実際のアクセス速度はやはり半分程度になってしまっている。 Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmarkにおける両者の差は、ほぼ1.5倍程度の差で理屈どおりであるし、Athlon 64 X2 3400+のメモリ周りは目立った悪い印象は受けない。Athlon 64 2000+環境はメモリ周りで想定どおり動いていない節がうかがえる。もっとも、今回試したマザーボードは評価用機材であり、市場に出るころにはさらなるチューニングが行なわれると思われる。 続いては、Windows Vistaのエクスペリエンスインデックスを測定した結果である(グラフ6)。ここは意外な結果が目立つ。
まず、メモリテストにおいて、PCMark05のメモリテストやSandraのCache & Memory Benchmarkで奮わなかったAthlon 64 2000+の結果が非常に良好な点が気に留まる。逆に、Radeon X1250のコアを内蔵するYukon(Sempron 210U)のグラフィックの結果がいま1つなのは気になるポイントだ。 とくに後者はIntel GMA950より低い結果というのは気にかかる。Aero環境で使っていても明確に遅いという感じは受けないほか、先のPCMark05のグラフィックテストや後述の3D関連テストでは良好な結果を見せる。いずれの結果もWinSATのテスト内容に起因するものとは思われるが、原因は明確につかめていない。 次はPCMark Vantageの結果である(グラフ7)。このテストは、わりとSempron 210Uが健闘しており、デュアルコアのAtom 330を脅かすシーンが多い。また、グラフィック性能が功を奏してか、Athlon 64 2000+もわりと良い結果を残す傾向を見せ、Atom 230に勝るテストもあるほど。
総合的なパーツの性能が問われる本ベンチマークだが、ここまでマルチスレッドのアプリケーションを中心にCPU性能で見るとAtom330やAtom 230に一歩甘んじる格好となったSemrpon 210UやAthlon 64 2000+だが、プラットフォームトータルの性能でそれをカバーしている印象を受ける。 続いてはCineBench R10の結果だ(グラフ8)。こちらはCPU性能が大きく影響するテストであるが、シングルスレッドであればSempron 210UやAthlon 64 2000+が良好だが、マルチスレッド処理が可能である点でAtom勢にメリットがある結果になっている。
今回動画エンコードテストは、比較的軽量といわれるTMPGEnc 4.0 XPressのMPEG-2エンコードのみとした(グラフ9)。720×480ドットのDV-AVIファイルを8MbpsのMPEG-2にエンコードしている。リサイズやIP処理などは行なっていない。
典型的なマルチスレッドアプリケーションであるが、Sempron 210Uが想像以上の健闘を見せた結果になった。Hyper-Threadingによりマルチスレッド処理が可能なAtom 230と同等レベルのエンコード速度になっており、コアの素行の良さを見せている。 とはいえ、Athlon 64 X2 3400+はもちろんのこと、Atom 330との差もはっきりしている。動画エンコードにおけるコア数の違いは非常に大きい。 次に640×480ドット/1.5MbpsのWMV9をWMP11で再生したときのCPU使用率である(グラフ10)。1秒ごとに使用率をトレースし、3分間の平均を出している。
Sempron 210UがAtom 230よりも高いCPU負荷がかかっているなど、全体にAMD勢のCPU使用率が高めに出た印象を受ける結果だ。グラフィック機能のアクセラレーションが想定どおり動作していないと想像される。このあたりはアプリケーションやドライバなどの最適化によって傾向が変わることもあるが、WMP11というメジャーアプリでの結果であることを考えると、AMD勢にとっては少々さびしい印象を受ける結果といえる。 ここからは3D関連のベンチマークだ。まずは3DMark06のCPUテストの結果であるが(グラフ11)。このテストもマルチスレッドが利くテストであり、Sempron 210UとAtom両製品の傾向は、ここまでに見せたテストと似た傾向になっている。ただ、Athlon 64 2000+のみは少々スコアが伸び悩む結果となっている。
一方、グラフィック性能が影響する3DMark06のSM2.0、HDR/SM3.0テスト(グラフ12)、3DMark05(グラフ13)、FINAL FANTASY XI Vana'diel Bench 3(グラフ14)の結果は、AMD勢の良さが目立つ結果になった。理由はいうまでもなくチップセットに内蔵されたグラフィック機能の性能差である。Intel 945GCに内蔵されたGMA950は3D処理にはいかにも不向きであることが明確になっている。
一方、Radeon HD 3200を統合するAMD 780MN環境の結果は、Radeon X1250を内蔵するYukon環境に対しても明確に優位性がある。とくにCPUへの負担が大きい一般アプリケーションを中心に性能が奮わない面があったAthlon 64 2000+を組み合わせた環境でも、Atom環境はおろかYukon環境をも上回る。 ちなみに、Intel G45とPentium Dual-Core E5200の環境が思いのほかよい結果に映るが、ここまでの結果を踏まえると、CPU性能によるスコアの底上げがあったことは想像に難くなく、Radeon HD 3200とIntel G45の性能によるものではないだろう。 もっとも、こうした話はあくまで相対的な上下関係であって、3Dゲームを楽しむのに十分な性能か、と問われると、Radeon HD 3200とAthlon 64 X2 3400+を組み合わせ環境においても決して十分とはいえないもので、FINAL FANTASY XI Vana'diel Bench 3の結果からDirect X8.1世代のアプリケーションのようにGPUの負担が小さめのゲームなら解像度次第では楽しめるレベルといえる。 最後に消費電力の測定である(グラフ15)。ここはAtom環境がAtom 330を含めて良好な結果になっている。Yukonもまずまず消費電力が抑えられているが、負荷をかけたときに大きめになる傾向がある。また、Athlon 64 2000+はYukonに非常に近い結果となった。AMD環境はGPUがリッチであることを考えると、消費電力が大きめになるのも致し方ない部分はある。ただ、3Dアプリよりもビジネスアプリが中心になるであろう本製品の性格を考えると、惜しいと思ってしまうのも事実だ。
一方のAthlon 64 X2 3400+はTDP35WのCPUということもあって、負荷がかかったときの消費電力は抜け出す格好となる。そのぶんも性能も頭1つ抜けていたが、一方でより高い性能を出していたPentium Dual-Core E5200の消費電力もまずまず抑えられているわけで、こちらに対してわずかに低い消費電力という値にどこまで価値を見出せるかが製品選びのポイントになりそうである。 ●バランスの良さが魅力に映るAMDプラットフォーム Atom対抗の製品として登場したYukonプラットフォームであるが、Sempron 210Uの結果に関していえば、シングルスレッドにおいてはAtom勢を上回るものの、マルチスレッド/タスクで利用した場合はAtom 230とAtom 330の間の性能、という雰囲気に落ち着く。 ただ、Atomの場合は一般アプリケーションではそこそこでも、グラフィック性能が求められるシーンで急激に性能を落とす。Yukonプラットフォームはこうした極端さがなく、何をやらせてもそこそこの性能を出せるのが大きな魅力といえるだろう。 一方、組み込み向け製品であるAMD 780MNを利用した環境は、CPUを変えられるという点と、AMD 780Gベースのチップセットを搭載しているという2つの点がポイントになるだろう。これにより下位のCPUを組み合わせればYukonやAtomのような性格になるし、上位のCPUを組み合わせればバリュー〜メインストリームPCレベルの性能を発揮できるようになる。ユーザのニーズ次第でさまざまな性格を実現できるスケーラビリティが魅力の製品といえる。 いずれにしても、昨年より自作市場でも高い注目を集めているAtomプラットフォームのような製品には、選択肢が少ないという根本的な問題がある。Yukonのようなプラットフォームが登場することで、こうした性格の製品に選択の幅が広がることは歓迎したい。 □関連記事 (2009年3月6日) [Text by 多和田新也]
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