自治体の補助金は5年間で倍増
こうした変化は鹿児島県にも影響を与える。これまで県単独としてのバス事業に対する補助金は少なかった。だが、現在はいわさきの廃止路線の約半分である139路線を代替バスで補っており、その負担は09年度から本格化するという。
全国に目を転じても、03年から07年までの5年間で都道府県、市町村におけるバス事業への補助金は2倍の420億円に増加した。国の補助対象は複数市町村にまたがり、かつ乗客がある程度見込める路線。そのため過疎地域の路線は対象となりづらい。自治体によるバス路線維持費は8割が特別交付税として交付されるが、「災害対策費などさまざまな項目を含み、バス事業にすべて戻るわけではない」(鹿児島交通政策課の中川寿男主査)。
民間企業が撤退した後の代替措置は、自治体の大きな負担だ。コミュニティバスは自治体が費用を負担し、既存のバス事業者に運営委託する。だが、その維持費は軽く見積もっても1台当たり年間1400万円以上が必要な計算になる(下表参照)。現在では全国各地で、コミュニティバスや乗合タクシー(複数の住民で移動するタクシー)を見直すケースが増えている。
受託するバス事業者からも不満の声が聞こえる。自治体によって補助金の出し方がバラバラで、観光などほかの黒字事業がある場合は、補助金が出ないケースもあるためだ。バス交通政策に詳しい東京海洋大学の寺田一薫教授は「そもそも自治体にはバス交通を担える人材がおらず、バス運営のノウハウに乏しい」と指摘する。
不便さが増す交通インフラに不安を抱く住民。増え続ける補助金と、慣れないバスの運営という新たな課題を突きつけられた地方自治体。さらには、運営するバス事業者も悩みを抱え、八方ふさがりの状態だ。
これに対し、国土交通省は人材の派遣や、コミュニティバスを開始する際の費用補助など地域交通の試みに補助金を出している。だがその額は08年度30億円、09年度でも44億円にすぎない。自動車交通局の黒須卓・地域交通政策企画官は「何でも民営化というご時世。補助金の基準作りや、コミュニティバス運営の制度化などを国交省が主導することは難しい」と語る。
「公共交通機関のバス事業が、規制緩和によって完全なビジネスになってしまった」(日本バス協会の堀内会長)。
規制緩和から7年。いびつな構造となったバス事業に、各地で手探りの状況が続く。その影響を真っ先に受けるのは、交通弱者である高齢者だ。交通インフラとしてのバス事業の再考が求められている。
(週刊東洋経済)
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