このような地方における交通インフラ弱体化は、何も鹿児島だけに限った話ではない。そもそも日本のバス産業は、自家用車の普及により長年苦戦を強いられてきた。バスの輸送人員は1970年代のピーク時から4割近くまで減少。全国の路線バスのうち赤字路線は7割以上に上る。毎年全国で約9000キロメートルもの赤字路線が廃止されており、02〜07年までの5年間では全国で4・3万キロメートルのバス路線が「消滅」した。
きっかけは規制緩和だ。96年に交通市場全般における需給調整規制が撤廃され、00年貸し切りバスと海運業、02年には路線バスの規制緩和が始まった。参入、路線廃止ともに、許可制から届け出制に変更。路線廃止の場合もバス事業者は、6カ月前に自治体に通告すれば、地域協議会での審議後、廃止が可能となった。
鹿児島市内では1時間に15本超の過密ダイヤ
規制緩和は国や地方自治体の補助金に依存し赤字を補填してきたバス事業に新規参入を促し、利用者の利便性を向上することを狙っていた。だが、参入が相次いだのは、もともと黒字の貸し切りバスと、一部の大都市圏の路線バスのみ。その一方で、地方を中心に赤字路線からの撤退が相次いだ。
鹿児島でも構造は同じだ。いわさきコーポレーションにとってドル箱事業だった、鹿児島市から種子島、屋久島を結ぶ高速船「トッピー」に、低賃金の臨時運転手やガイドを使い価格競争力を武器にする新規事業者が参入。同社は高速船事業や貸し切りバス事業が赤字に転落、約800億円もの有利子負債を抱えた。そして赤字補填の“原資”を失った路線バスでは、06年に県全域で全路線の2割に当たる、208路線1174キロメートルの廃止に踏み切った。
その一方で、同社は乗客が多く確実な収入の見込める鹿児島市中心部に、多くのバスを投入。150円の格安料金を設定し、人気を集めている。いわさきコーポレーションの岩崎芳太郎社長は「すべては規制緩和が原因。利益の見込める中心部へのバス投入は、会社として当然の決断」と語る。
その結果、鹿児島市内では市営バス、いわさき系のバス、路面電車が混在し、路線バスだけで1時間に15本以上の過剰供給状態となった。この鹿児島の状況は、大都市圏には増便や料金低下などのメリットがもたらされ、その他の地域では、交通インフラの崩壊に住民があえぐという規制緩和の帰結を如実に表している。
下のグラフは、人口30万人以上の都市とその他地域のバス事業者の経常収支率を比較したもの。経常収支率とは収入を営業費用で割った指標で、100%以上で採算ラインに乗っていることを表す。都市圏のバス事業者の経営状況は規制緩和後に改善しているが、その他の地域では逆に悪化している。日本バス協会の堀内光一郎会長は「補助金と黒字の貸し切りバスで赤字路線の穴を埋める、バス事業のビジネスモデルが崩壊した」と規制緩和の負の影響を強調する。
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