薬剤の進歩などで治療効果が格段に高まった喘息(ぜんそく)。だが、発症率は逆に高まるばかりで、国内の発作死は年間3000人近くに上る。こうした実態を浮き彫りにしようと、患者団体が主体になった初の実態調査結果がまとまった。難治化した患者が予想以上に多く、生活の制約や治療費の負担が大きいことなどが分かった。(八並朋昌)
「40、50年前は大人も子供も発症率は1%前後だったが、現在では大人が3〜4%、子供は5〜7%かそれ以上になっている」と喘息患者の声を届ける会(東京都中央区)の代表世話人で日本アレルギー協会理事長の宮本昭正さん(79)。同会は患者の実態を発信する「喘息患者の生活・環境・意識調査」実施を目的に、患者5団体と専門医らが昨夏設立した。
「発症率上昇は先進国ほど顕著で、背景には清潔志向による免疫力低下や家屋密閉化によるアレルゲンの増加、大気汚染、肉や脂肪の(摂取量)増加といった食生活の変化などがある。近年は成人発症も増えている」
調査を担当した昭和大医学部呼吸器・アレルギー内科部門教授の足立満さん(62)は「薬の進歩と治療ガイドラインの普及で、発作などによる死者は減っているが、それでも平成18年で2778人いる」と話す。喘息死は厚生労働省の人口動態調査だと、昭和26年に1万4867人と最多になってから減少が続き、51年に6948人に半減。平成14年に4000人、18年に3000人を割った。
足立さんは「発作がないと一見健康に見えるので周囲の理解が進まない半面、発作や治療がつらいという患者が少なくない」。また、「治療薬が進歩しても、重症者が予想以上に多いことが実態調査で浮かんだ」とも。
調査結果で、患者は平均63・9歳、半数以上が60歳以上で、成人発症の増加を裏付ける。全体の14・2%は発作が週1回以上起き、この半数は毎日起きている。救急外来の受診は、1割が「年2回以上」経験するなど、症状が重い。
半面、半数以上が症状や日常生活で「つらいことや困っていることがある」とし、うち13・6%(複数回答)が「身近な人の無理解」「職場に喘息のことを言えない」など、周囲の無理解を挙げている。
患者団体の一つでNPO法人日本アレルギー友の会(東京都江東区)副理事長の武川篤之さん(60)は「患者5団体が合同で実態調査を行えたのは、患者自身の声を発信する面でも、大きな意義がある」。
国立病院機構相模原病院アレルギーの会(神奈川県相模原市)広報部、北島芳枝さん(60)は「私は喘息で会社を辞め家を手放し、趣味もペットもあきらめた。調査でも6割近い人が『あきらめたものがある』と回答。長期・難治化した人が少なくないことが分かり、支援態勢は必要だ」。ひまわり会(大阪府富田林市)会長の山田泰義さん(68)は「発作は命にかかわるので薬を手放せないが、値段も高い。公的支援を」と訴えている。
■就職や進学をあきらめる人も
「喘息患者の生活・環境・意識調査」は昨秋、患者5団体の会員ら1984人が回答。85・5%が薬を処方されており、この3分の1が4剤以上使用。8割余は発作の予防効果の高い吸入ステロイド剤を使うが、この4分の1は効果が不十分で、副作用が強い経口ステロイド剤を使わざるを得ない。
話ができないほど重い症状や発作が月1回ある人は6・9%、年1回程度ある人を含めると20%。2・9%は症状急変で年2回以上入院している。回答者の半数は喘息のために「社会活動の制限を感じる」とし、「あきらめたこと」は「スポーツ」「友人との外出」「ペット」「就職」「昇進」「進学」など。
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