閉館が決まったカザルスホールの建物=東京都千代田区
閉館が決まったカザルスホール。大型のパイプオルガンが「顔」だった=東京・お茶の水
日本を代表する室内楽の殿堂、東京・お茶の水の日本大学カザルスホールが来年3月で閉館することが分かった。日大キャンパスの再開発計画に伴うもの。風情のある建物や文化財級のパイプオルガンがどうなるのかは未定だが、音楽ホールとしての歴史は事実上幕を閉じることになる。
同ホールは87年、チェロの巨匠パブロ・カザルスの名を冠し、日本初の本格的な室内楽ホールとして主婦の友社によって建設された。当時は華やかな大ホールが注目を集めたバブル期だったが、511席という親密な空間と優れた音響で、ロストロポービチや内田光子ら内外の一流アーティストにも愛された。
02年、経営難に陥った主婦の友社が日大に売却。大学の施設として使われる一方、一般向け貸しホールとしても運用されてきた。日大総務部によると、来年4月以降の公演申し込みは断るといい、「建物自体を残すかどうかは未定だが、敷地は大学の施設として使う予定」としている。
同ホールは、ビオラの祭典「ヴィオラスペース」などユニークな自主公演を相次いで企画し、全国各地のホールのモデルケースとなってきた。アコーディオン奏者の御喜(みき)美江さんは「ホールというより『工房』という印象。ハードとソフトが一体となり、人の血の通った空間で演奏家を育ててきたホールは他にない」と、閉館を残念がる。
同ホールの顔だったパイプオルガンの行く末を憂う声も少なくない。ドイツの名匠ユルゲン・アーレント作。開館10周年の97年に設置され、マリー・クレール・アランや鈴木雅明ら、世界的なオルガニストに演奏されてきた。
廣野嗣雄・東京芸大名誉教授は「バッハ以来の伝統を、ここまで忠実に残すオルガンは世界的にも珍しい。移築も不可能ではないが、オルガンはホールと一体の楽器。日本の宝として鳴り響き続けてくれるのを祈りたい」と語っている。(吉田純子)