木曜洋画劇場

放送までの激闘

その魅力的かつ個性的なラインナップで、お茶の間の映画ファンを魅了し続けてきた「木曜洋画劇場」。いよいよ2000回を迎える「木曜洋画劇場」の壮絶な舞台裏を探るべく、番組プロデューサー3人にインタビューを敢行!
 
★怒涛のラインナップは、数年前から準備!
いよいよ「木曜洋画劇場」が2000回を迎えますが、このスペシャル・ラインナップに併せた広報・宣伝の取り組みをまず教えていただけますか?

チーフプロデューサー(以下CP):通常の2本の柱である、番組宣伝スポット、紙媒体(雑誌記事・新聞)の展開はもちろんですが、今回は特別に「2000回記念スペシャル」の特設サイトの制作のほか、街頭ビジョンにラインナップ紹介の映像を流します。あとは、視聴者プレゼントと、通常では出しにくい新聞広告も行う予定ですから、楽しみにしていてください。

それにしてもすごい作品が並んでいるのですが……ラインナップはどういったタイミングで決定されるのでしょうか?

CP:今回に関していえば、この時期に2000回に到達することは分かっていましたから、2、3年前から計画的に放映権をクリアしながら準備を進めていきました。放送ラインナップ自体を決めるのは、通常2ヵ月ほど前なのがパターンですが、放映権を購入するタイミングは、実際に放送する1年から2年、モノによれば3、4年前ですからね。それに「1年に1回」とか放映できる期間が決まっているので、対象となる作品はおのずと決まっていくというのはありますね。あとは話題作の公開に合わせて、“ダイハード4.0があるからブルース・ウィリス作品”ですとか、“他局がいついつやったから、その後はこれくらい空けたい”とか、そう考えると、それこそパズルのように埋まっていってしまいますね。

先々を考えて動いていくのが大変そうですね。

CP:ええ、何に合わせるのか?を考えるのが大変ですね。

先の『ロッキー・ザ・ファイナル』の公開時には、それこそ申し合わせたかのように各局でシリーズ作が放送されましたが、連携などは取られるのでしょうか?

CP:いいえ、横の繋がりは基本的にまったくないですね。ですが、話題になるものが何で、どういうタイミングでというのは、狙っているものはほとんど同じですから。自然に重なります。

★差別化のキーは“男性ファン”
その中でいかに他局と差別化を図っていくのか……苦労されるのでは?

CP:そうですね。“この時期にやれば絶対に数字が取れる!”というのは分かってるんだけど、すでに他局が権利を持っているとか、やはり放送局がやりたいと思っていても、権利的に難しかったりするのが一番辛いところです。

しかし、木曜洋画の枠は非常に特色のあるラインナップで、すでにファンもついている印象が強いです。例の……非常に話題になった“ヴァンダミング・アクション”(笑)、インパクトのある一連の番組宣伝ですとか。

CP:はいはい(笑)。ああいった路線は2、3年ほど前から作るようになったんですが、そのきっかけはというと、たとえばジャン=クロード・ヴァン・ダムという俳優がいますよね、彼の映画ってアクションばっかりじゃないですか。映画の中身自体は違うんですが、予告の作りとしては「ヴァン・ダム最新作!アクションがすごい!」みたいに、毎回ポイントは同じものになっちゃうんです。同じ人が出ていて同じようなアクションもので……となると、視聴者もまた同じかと思っちゃう。飽きられてしまうのが辛いので、それを変えていきたいなというところが、そもそもの出発点です。

そうするとラインナップも、アクション、SFなど、意識して揃えるようにされているんでしょうか?

CP:そもそもこの枠は男性ファンが多いので、その人たちを意識してるのがしっかりとラインナップにも表れてきているのかなと思っています。それが結果として、差別化に繋がっているのかなと。

ちなみに、「木曜洋画劇場」にはどれくらいのスタッフが関わっているのでしょうか?

CP:映画部の社員として直接番組に関わっているのはこの3人(CP、P1、P2)です。ただ放送までにこぎつけることを考えると、放映権の購入から始まりますから、僕ら以外にも映画部では2、3人が関わっています。実際に作品が決まったら、この3人で動きます。実質的な制作作業に入っていきますと、社外のプロダクションの担当者が関わってきますから、相当な人数になりますね。

★「木曜洋画劇場」は吹き替え制作にも手抜きなし!
さて、いよいよ吹替版制作のお話になりますが、期間はどれくらいかかるのでしょうか?

CP:作品にもよりますが、2~3ヵ月間ですね。7月に『ブレイド3』をやると決まったら、4月にはプロダクションに発注して、翻訳に1ヵ月、それと並行して声優さんを選定して、編集のプランを考えて……となります。

キャスティングに関しては、テレビ東京が主導で決めるのですか?

CP:いえ、そういうわけでもないです。基本的には、吹替制作プロダクションのプロデューサーと演出家との打ち合わせの中で決めていきます。俳優のFIXにはやはりこだわりはありますので、ウェズリー・スナイプスならお馴染みの大塚明夫さん、クリス・クリストファーソンは大塚周夫さんでやりたいと、メインクラスの方はこちらからお願いすることもあります。

ひとりの声優で定着してない方がいるじゃないですか? そういう場合はどうされますか?

CP:一番悩みますよねー(苦笑)。たとえばロバート・デ・ニーロとか。演じる役柄によって全然印象が違う人が難しいですね。そういう場合は、役柄優先で考えることにしています。

「木曜洋画がスタンダードを作ってやるんだ!」みたいな俳優はいますか?

CP:そうですね……ここ数年、年に1回くらいですが、シルベスター・スタローンものを新しく録り直す機会がありまして、ささきいさおさんにお願いして、“木曜洋画版”を作ったのは3本くらいあります。スタローンは、ロッキーは羽佐間道夫さんですが、ランボーはささきさんで定着かな……と。

新たに作られる場合は、決め直さなければいけないことも多いんじゃないでしょうか?

CP:そうですね。限られた時間での放映ですから、カットも当然あるわけですね。悩みどころですね。声優を決めるのと同じくらい悩みます(苦笑)。すでにあるものよりも、当然新しく作るほうが手間も掛かりますし、注意する点も多いですよね。

吹替版を新たに作る場合と、元々あるものを使う場合の線引きは?

CP:それはですね……うーん……別の局で放送したものや、DVDの発売時に作られたもの、最近は劇場公開時に作られることも増えたんですが、我々がそれをプレビューするんです。そこで、我々が考える役のイメージに声が合うかどうかですとか、よく出来ているから使おうですとか、なかなか判断が難しいですが、そうやって決めます。最近は吹替の素材があることが多いので、そのまま使うことも増えていますね。

ふと思ったんですが、これだけ吹替版が普及しているのに、深夜の映画は字幕放送が増えましたよね。昔から映画ファンの字幕信仰はありますが、そうすると吹替版の普及と話が合わないと言いますか……。吹替・字幕のメリット、デメリットについてはどうお考えでしょうか?

CP:「木曜洋画劇場」に関しては、邦画を除いてすべて吹替ですね。吹替のメリットは、字幕よりも断然多くの情報量が伝えられるということが一番ですね。それにゴールデンタイムでの放送となると、小さなお子さんからお年寄りまで、幅広い層が観られるんです。字幕になると、どうしてもずっとテレビの前に座って字幕を追わないといけないことになるので、吹替が適しているんじゃないかと考えています。込み入ったストーリーだと、字幕だけですとどうしても掴みづらくなりますし。深夜枠はどうなんでしょうかね……正確なことは分かりませんが、字幕の方がいいですとか、そういった意見を取り入れやすいのが深夜枠なのかもしれません。

2000回記念では、HDデジタルリマスター版放送も話題ですが、素材のハイビジョン化で苦労されてることはありますか?

CP:僕が映画部に来たのは10年くらい前なんですが、そのころは16mmフィルムがまだ素材としてありました。それが1インチテープ、D2素材、そしてHD素材へと変わってきて。放送局は配給からもらう素材を基に加工するので、手配に関していえば、配給会社の方が苦労されてると思います。デジタルになり画郭(画面のサイズ)が16:9になってHDになると、今まではD2素材でOKだったのが、よりハイクオリティなものが必要で……特に旧作といわれる60年代、70年代の作品を取り直してHD素材にしていかないといけない。HDの映像素材は権利元が持っていて用意してくれるのですが、吹替音声とシンクロさせたHDマスターはまだまだ少なくて。別にある日本語素材をこちらでシンクロさせるという作業が多いです。

デジタル放送が落ち着くまでは、まだ続いていきそうですね。

CP:「木曜洋画劇場」のHD放送はもう3年になりますね。ほぼ90%がHD放送になっていますから、配給からはHD素材で来ることが多くなりました。

★真の激闘は、毎週“火曜日”だ!
それでは御三方それぞれで、思い出や苦労したエピソードなどがあれば教えてください。

P1:私は「木曜洋画劇場」に来て1年なのですが、間に7年空いていてその前は映画部だったんですね。ですから仕事自体に対しての驚きは少なかったんですが、当時に比べたら「メジャーな作品が増えたなあ」というのは感じますね。以前はB級作品や未公開モノも多くて、「え!? この作品知らない!」みたいなのが、なぜか数字がよかったりして(笑)。

P2:私も「木曜」に来たのは最近なので、思い出といってもほとんどないんですが(苦笑)、“放送までの激闘!!”という意味でいえば、毎週火曜日に新聞のラテ欄の〆切がありまして……毎週3人で頭を悩ませて……それが最後の激闘なんですよ(笑)。

CP&P1:そうそう(笑)。

P2:その入稿が終わると、やっと仕事も終わるといった感じで。スタートは3年前の買い付けから始まって、ゴールは放送直前の火曜日。木曜に放送で、金曜の朝は……あんまり会社に来たくなかったりもするんですけど(笑)。でも毎週火曜日はラテ欄。

CP:2行くらい内容を入れるところあるんですが、1日中考えてますね。普通に書いてもあんまり面白くないので、ちょっとキャッチーに、「お!」と目を引くようなものを目指しています。

P2:最近は他局さん含めて、普通なものがないんですよね。インパクトだけが強くて内容が分からないといいますか、エスカレートしてる感じです。うちが火をつけたんじゃないですか?(笑)

2時間枠のサスペンス・ドラマの方が過激ですよね。負けてたまるかと思われていたりして?

P2:最大20文字なので、バラエティ番組には負けますね。2時間ドラマも長いですよね。サブタイトルで結末まで全部書いてるんじゃないかって(笑)。以前『ロボコップ3』の時に「空飛ぶ超合金デカ いま、倒しにゆきます」というのがあったんですが(苦笑)、たとえ面白くても内容が伝わらないといけないよな……とか考えますよね。

それでは、「木曜洋画劇場」の今後についてメッセージをいただけますか。

CP:今後の“隠し玉情報”としては、日本で“オールメディア初リリース”というのがあります。某配給会社と提携してですね、日本での一発目は地上波でやろう! と、最近ゴールデンタイムでは無いパターンのものを予定しています。ある理由で日本では公開されていない作品です。

P2:今後も期待の作品がまだまだありますので、今までの路線をさらにパワーアップして、ご期待に応えていけるのは間違いないと思います。

CP:そういう意味で言うと、「木曜洋画劇場」って、古いものから新しいものまで、ここでしか見られないものって結構多いと思うんですよ。邦画で今も『極道の妻たち』をやるのはうちだけでしょうし、ジャッキー・チェンの『プロジェクトA』をゴールデンで見られるのもうちならではでしょうし(笑)。特に今回、2000回記念のラインナップをみると木曜洋画らしさがすごく良く出ていると思います。旧作から新作、アクション中心かと思いきや『戦場にかける橋』もあって……。

P2:ひとつの特集企画で『ブレイド3』と『戦場にかける橋』が同居してるのは、きっとウチだけでしょう!(笑)

貴重なお話をどうもありがとうございました。2000回記念放送、楽しみにしています!
 

(インタビュー・構成/村上健一)
協力:(株)フィールドワークス supported by allcinema ONLINE