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「あしながおじさん」といえば心温まる米国の小説だ。孤児院で育った一人の少女に、誰だか分からぬ「おじさん」が大学へ進む資金を送ってくれる。彼女は生き生きと学び、やがて思いがけない幸福を手にする▼美しい物語も、政界を舞台に書き直せばキナ臭くなる。浄財のはずの政治献金の背後に「正体不明のおじさん」がうごめく。善意ならぬ魂胆を秘めたカネの送り主だ。その一つ西松建設は、隠れ蓑(みの)の団体を作って姿を隠し、民主党の小沢代表らの政治団体に禁じ手の企業献金をしていた▼その献金を受けた疑いで、氏の公設第1秘書は逮捕された。青息吐息の首相を攻めていた野党の党首が、「政治とカネ」の石につまずいた。王手をかけていただけに政界は大きく揺れている▼きのうの記者会見で、小沢氏は捜査を「不公正」と強調した。同じような問題はこれまでもあったのに、なぜ今回だけ捕まるのか。胸中には憤りがあるようだ。この点は小沢氏だけでなく、国民を納得させる責任が検察側にもあろう▼それにしても政界の不思議は、「あしながおじさん」が何者かを知ろうとしないことだ。詮索(せんさく)はせずに善意を信じるという心ばえらしい。そして、やましいカネでも出どころを知らなければ罪をかわせる法律を、お手盛りで作っている▼騒ぎに紛れるように、衆院の「3分の2」がまた行使され、定額給付金の財源などの法が成立した。与党は一息かも知れないが、このバラマキで国民への「あしながおじさん」を気取るようでは、魂胆が知られることになる。