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【社説】

給付金支給へ 政治の劣化が甚だしい

2009年3月5日

 世間に不評な定額給付金関連法が成立した。“問答無用”の衆院再可決を経て。多くの国民の思いと麻生政権が進める政策との乖離(かいり)が甚だしい。加速度を増す「政治の劣化」はあまりに深刻だ。

 総額二兆円の定額給付金などの財源を確保する二〇〇八年度第二次補正予算関連法が参院本会議で否決されるや、与党は衆院本会議で三分の二以上の賛成で再可決した。一昨年夏の参院選結果がもたらした衆参ねじれ下で、おなじみの光景が再び繰り返された。

 衆院と参院の意思が異なることは、議会政治にとって重く受け止めるべき事態である。なのに憲法に定められているからといって、一致点を見いだす努力もせずに、与党は再可決カードを安易に切り続けている。かたくなな姿勢は甚だ遺憾だ。

 小泉純一郎元首相が事前に再可決に異議を唱えたことで、焦点となった自民党からの造反は結局、小泉氏と小野次郎衆院議員の二人にとどまった。党執行部が所属議員に給付金受給を促す文書を送付したり、造反防止へ各派閥に協力を要請するなどの締め付け効果がそれなりに出たようだ。

 こうでもしないと、造反者が続出しかねなかったあたりに、給付金の抱える問題点が浮き彫りになっているのではないか。

 世論調査では、七割が給付金を評価していない。

 景気悪化が底を見せない中、一人あたり一万二千円が配られれば家計の助けにはなろう。成立を受け、近く支給を始める自治体もあるが、一回限りでは経済効果は望み薄との見方が少なくない。

 二兆円という巨額な税金を使うなら、例えば雇用緊急対策や医師不足解消など他に有効な使い道はたくさんある−。そんな思いが給付金への冷ややかな視線につながっている。民意とのずれを顧みず、見直しに動こうともしない政府・与党は鈍感すぎる。

 麻生太郎首相にとって、給付金問題は「鬼門」だった。生活支援か、景気対策か、という政策の趣旨がいまひとつはっきりせず、高額所得者を除外するかでも方針が迷走。揚げ句は自らが受け取るかどうかで発言がぶれ、内閣支持率急落の一因にもなった。

 野党は定額給付金を「総選挙前のばらまき」と批判してきた。与党側の思惑はともかく、結果として政権の稚拙さばかりを有権者にさらけ出してしまったのは、何とも皮肉なことである。

 

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