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社説:定額給付金 それでも「バラマキ」は通った

 定額給付金などの財源を確保する08年度第2次補正予算関連法が4日、衆院本会議で与党の3分の2以上の賛成により再可決され、成立した。再可決に異論を唱えていた小泉純一郎元首相は欠席したが、自民党には同調者が広がらず、小野次郎氏が採決を棄権しただけだった。

 定額給付金について毎日新聞は、目的も効果も不明確な究極のバラマキ策であり、同じ2兆円を使うなら別の使い道を検討すべきだと再三指摘してきた。野党も同様に反対し、先月の毎日新聞世論調査でも73%の人が「評価しない」と答えている。にもかかわらず、政府・与党は何ら修正もせず、再可決に突き進んだのは極めて残念だ。

 改めて振り返っておく。今回、混乱させたのは麻生太郎首相本人だ。

 首相は当初、「全世帯に支給する」「私が決断した」と大見えを切ったが、その後、首相本人は受け取らない考えを表明し、高額所得者がもらうのは「さもしい」とまで発言した。ところが与党から説得されたのか、最後は「消費刺激に私も参加する」と一転して受け取る考えを示した。

 生活支援策なのか、消費刺激策なのか。首相のぶれた姿勢は、政策の目的自体が揺れ続けたことを反映したものだった。

 そもそも話の発端は、昨年前半の原油高や食料品高騰を受け、その穴埋めをする生活支援策として公明党が定額減税を提案したことだ。しかし、昨秋のリーマン・ショック以降、世界の経済状況が一変し、政策の前提条件が変わってしまったにもかかわらず、政府・与党は一から見直そうとはしなかった。

 政策の立案と実施が環境変化のスピードに追いつけない。そんな麻生政権の現状も象徴していよう。与党は審議促進に協力しない野党を批判するが、衆参のねじれの下、まず政権与党側が野党の主張に聞く耳を持たないと打開はできない。

 今回、負担増ではなく現金が支給されるというのに国民の間には異論が多く、「2兆円は別の政策に」との声が広がった点にも注目したい。従来、政治家や官僚に任せがちだった姿勢から脱皮し、税金の具体的な使途にも厳しい目を向け始めた有権者の意識変化の表れではないか。この変化にも与党は鈍感だった。

 自民党内では新年度予算案の成立後、さらに新年度の補正予算案を提出するとの考えが強まっている。国会審議を続けることで、麻生政権の延命につなげたいねらいもあるのだろう。

 だが、それでは事実上の政治空白が続くだけだ。一刻も早く衆院を解散し、与野党が新たな経済対策を提示して、どちらが効果があるか競い合う総選挙を早期に実施すべきだ。国民に信任された政権が信任された政策を遂行する。それがスピードアップにつながる。

毎日新聞 2009年3月5日 東京朝刊

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