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西松事件―小沢代表は退路を断った

 公設第1秘書の逮捕から一夜明けたきのう、民主党の小沢代表が記者会見し、検察の捜査に強く反論した。

 逮捕容疑は、西松建設からの献金であることを知りながら、企業献金が禁じられている小沢氏個人の資金管理団体で受け取り、政治資金収支報告書に虚偽の記載をしたというものだ。

 小沢氏は「政治団体からの寄付という認識だったから、資金管理団体で受領したと報告を受けている」「政治資金規正法に忠実にのっとって報告し、オープンになっている」と語り、違法性を強く否定した。

 小沢氏の資金管理団体は、03年から06年にかけて二つの団体から計2100万円の献金を受けていた。同じ政治団体からの自民党議員への献金などに比べて突出した大きな額だ。

 多額の献金の背景をどうチェックしていたかについては、「一般的にお金がどういうところから出ているのか詮索(せんさく)しない。献金してくれるみなさんの善意を信じている」とかわした。

 そればかりではない。40分あまりの会見で、検察の捜査を「従来のやり方を超えた異常な手法。政治的にも法律的にも不公正だ」と断じ、「民主主義を危うくする」とまで述べた。

 だが、これでだれもが納得できるだろうか。この政治団体が西松建設の名前を隠すためのダミーであることを、秘書は本当に知らなかったのか。これだけ多額の献金を受けながら、小沢氏が団体の内実について秘書と話さなかったというのは不自然ではないか。

 ゼネコン各社が激しく公共事業の受注合戦を繰り広げる中、西松側に便宜を図ってほしいという意図があったことは容易に想像がつく。

 公共事業への影響力をもとに政治資金を集めるという手法は、日本政治に長く巣くってきた。法に基づいて形式的には万全な処理をしているから問題はないという小沢氏の説明は、あまりに実態とかけ離れていないか。

 小沢氏だけでなく、民主党内には衆院の解散・総選挙を前にした政治的狙いが込められた捜査ではないかという声がある。確かにこの事件が民主党だけでなく、日本の政治情勢全体に与える影響はとてつもなく大きい。

 検察当局もこれを意識したはずだ。有力な証拠がなければ、捜査着手はできなかっただろう。政局の行方に直接かかわるだけに、国民も捜査の行方を厳しく見つめていくことになる。

 民主党は、政官業の不透明な関係に支えられた自民党的な利権構造を厳しく批判してきた。ところが小沢氏の会見では、自分自身とゼネコンとのかかわりについては、一言もなかった。

 小沢氏は退路を断った。今後の捜査で説明と矛盾する事実が明らかになれば、小沢氏の政治生命にも跳ね返ってきかねない。

2兆円給付金―もっと賢く使いたかった

 2兆円もの巨額の税金の使い方として果たして妥当なのか。大きな論議を巻き起こした定額給付金が結局、支給されることになった。

 支給に必要な第2次補正予算の関連法案が、野党優位の参院で否決された後、与党が衆院で3分の2の多数で再可決し、成立した。

 もちろん再議決は、憲法の規定にのっとった手続きである。だが、定額給付金については、報道機関の世論調査で大半の回答者が「やめた方がいい」「景気対策として有効でない」などと答え、国民の多くが批判的に受け止めていることが分かっている。

 苦しい生活の中、給付金が届くのはありがたいと、支給を心待ちにしている人も多い。ただ、それはこの政策の是非とは別な話だ。同じ2兆円を使うなら、急増する失業者への手当てなど、真に助けを必要とするところに振り向けてほしい。それが国民の率直な思いに違いない。

 与党はこれに耳を傾けないばかりか、両院協議会を開催しようという野党の要求も退けた。衆参で議決が食い違った時に、与野党で話し合い、妥協を探る場なのに、それを門前払いした与党の態度は誠実さに欠ける。

 麻生首相の迷走も情けなかった。給付金を受け取るのか、受け取らないのか。首相の発言は二転三転した。

 再議決には小泉元首相が欠席した。与党内では「最初に衆院で採決した時は賛成したのに、再議決で欠席は筋が通らない」との批判が出ている。

 だが、衆参の判断が異なるのなら「お互い納得できる案を協議してもいい」という小泉氏の主張はしごくもっともだ。その作業を放棄しての再議決に賛成できないというのは、理解できない話ではない。

 野党との妥協を拒み、世論の反対も強い政策をひたすら数の力で押し通す。与党の姿勢はかたくなすぎる。

 未曽有の不況に国民のだれもが不安を抱いている。与野党の意見が違うのは当たり前だが、それを調整し、妥協しながらできるだけ多くの国民の思いをすくい上げるのが、いまの政治に求められる役割なのではないのか。

 麻生首相と与党がもっと野党との対話や妥協に真剣であったなら、景気対策はもっとスピーディーに実現できた可能性は否定できない。

 福田内閣以来、衆院での再議決は今回で7度目だ。それが妥当なのかどうか、早く総選挙の投票を通じて意思表示したいと思う有権者は多かろう。

 与党内では、新年度の補正予算案づくりに入るべきだという声が強まっている。その成立まで解散・総選挙の先送りをめざす動きもある。

 だが、いっさいの妥協を拒んで再議決という強引な手法を繰り返す政治をこれ以上続けていいはずがない。

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