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地核変動 都市の可能性
(1)2つの百貨店覇競い、城下町に活気
姫路で予想をはるかに上回る売れ行きとなった、京都の洋菓子店「マールブランシュ」=姫路市南町、山陽百貨店(撮影・青木信吾) |
その店のケーキは、神戸・三宮のそごうにも、元町の大丸にもない。
姫路市の山陽百貨店。若者に評判の京都・北山の洋菓子店「マールブランシュ」が食料品売り場にオープンして、二度目の新春を迎えた。山陽社長の澤田瑞頴(みずのぎ)(66)は売り場のにぎわいを見て、数々の著名ブランドとの出店交渉を思い出した。
神戸・阪神間の洋菓子店には「目標は東京や大阪」と一蹴(いっしゅう)された。ルイ・ヴィトンやプラダには「(姫路の)人口約五十万人は少ない」と指摘された。
しかし「マール―」の売上高は、計画の二倍に。運営会社のロマンライフ(京都市)は「姫路は予想を上回る好調ぶり」と手応えを感じている。
「神戸や大阪に近すぎて、姫路の魅力が伝わらない。だが、この街には余力がある」。澤田は、確信する。
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播磨の核都市・姫路。JR、山電両駅と、世界遺産の姫路城を結ぶ大手前通りを軸に、約七十ヘクタールの中心市街地が広がる。山電駅ビルに山陽百貨店。城の近くに老舗のヤマトヤシキ。県庁所在地以外で全国唯一、複数の地場百貨店が覇を競う。市外からも人を引き付けた証しだ。
しかし大型小売店の出店規制が緩和された二〇〇〇年以後、姫路周辺にも大型店が次々に進出し、人の流れを変えた。中心市街地の小売販売額は一九九四年の千六百六十四億円が〇四年は千六十八億円と35%減。大丸神戸店一店分しかない。
姫路の経済力は、決して衰えていない。兵庫県の有効求人倍率は平均で一倍を割るが、姫路は昨年十一月で一・五八倍と人手不足の状態。申告納税者の平均所得額(〇五年)は五百六万円で、人口がほぼ同じ尼崎(四百九十四万円)を上回る。
昨年二月、姫路市は市内や近隣市町の主婦約千五百人に、神戸や大阪に買い物に行く回数の変化を聞いた。56%が「変わらない」。31%は「減った」。消費者の地元離れが強まったわけでもない。
県立大教授の中沢孝夫は「注目すべきは、足元の需要。可処分所得の高い世代を意識すれば、中心市街地に人を呼び込めるはず」と指摘する。
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ヤマトヤシキは昨年春、八階の飲食フロアを改装した。落ち着いた木目調の床。通路に休憩用のソファを並べ、化粧室も一新した。狙いは中高年層。人気の豆腐料理店も誘致した。
「郊外店で、売り場や飲食店の雰囲気になじめない人は多い。適度な広さで落ち着ける空間を作った」と、会長兼社長の米田徳夫は力を込める。
「お城、祭り、食文化…。姫路の個性は尽きない。どんな商売ができるのか、もっと考えたい」と山陽の澤田。
街に人を引き付けてきた両雄。自らの磁力を高めることが、都市の活気も高める。(敬称略)
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規制緩和、技術革新、格差拡大、高齢化…。時代の波は、都市や地域の核となる部分に大きな変化を起こす。波にのまれず、新たな可能性を探る動きを追う。
(高見雄樹、西井由比子)
(2008/01/05)