第3回 '70年代前半、TBSとフジテレビの関係(1)
藤津亮太
第2回ラストに、70年春に放送されていたアニメを各局ごとに載せた。
■日本テレビ 『赤き血のイレブン』『タイガーマスク』『巨人の星』
■TBS 『ばくはつ五郎』
■フジテレビ 『ハクション大魔王』『サザエさん』『アタックNo.1』『ムーミン』『昆虫物語みなしごハッチ』『あしたのジョー』
■NETテレビ 『ひみつのアッコちゃん』『もーれつア太郎』
ここで目を引くのは、フジテレビのアニメの本数の多さである。全12本のうち半数にあたる6本を放送している。
一方、その直前の第0次ブームの頂点をなした『オバケのQ太郎』('65)を放映したTBSは、わずかにアニメは1本である。
TV放送開始から10年余りを経たこの頃の状況を『テレビ視聴の50年』(NHK放送文化研究所)を次のように書いている。
「この時代にはまだ『三冠王』というような表現はなされていなかったが、最初の10年間に圧倒的な強みを示したのはNHKであった。60年代の中ごろからTBSがドラマなどで高い視聴率を獲得するようになるが、このベスト10でも、その様子が見て取れる。」
文中でいうこのベスト10とは、'72年の視聴率ベスト10番組のことだ。10番組のうち、6つがニュースなどを含むNHK総合の番組で、残りの4番組をTBSが占めている。(『ありがとう』『8時だヨ!全員集合』『水戸黄門』『東芝日曜劇場』)。
視聴率ベスト10をNHKとTBSで分け合うという傾向は70年代半ばまで続いている。その後、日本テレビやフジテレビの作品もベスト10に入ってくるようになるが、基本的に'70年代は民放の中では、TBSが強かった時代であるといえる。
一方、74年から76年にかけてフジテレビの編成部長を務めた坂本哲郎は当時をこう回想している。
「視聴率ドン底の時代。一強二弱番外地などといわれた。一強はTBS、番外地がフジテレビ。地獄にいるという心境だった。(中略)私の二年間の部長時代は『なんとかしろ』と系列局からつき上げられる毎日。系列会議は平謝り。つらい時期だった」(『タイムテーブルからみたフジテレビ35年史』フジテレビ編成局調査部)
ここで興味深いのは、視聴率的に苦戦しているフジテレビが、アニメを多く編成しているという点だ。
その理由を探るため、'70年代前半のアニメの放送本数を確認しながら、TBS、フジテレビでなにを放送していたかを見てみよう。
■70年秋 14本
【フジテレビ】(7本)『いなかっぺ大将』『サザエさん』『アタックNo.1』『ムーミン』『のらくろ』『昆虫物語みなしごハッチ』『あしたのジョー』
【TBS】(1本) 『キックの鬼』
■71年春 14本
【フジテレビ】(7本) 『いなかっぺ大将』『サザエさん』『アタックNo.1』『アンデルセン物語』『昆虫物語みなしごハッチ』『あしたのジョー』『さすらいの太陽』
※帯番組として『カバトット』が始まっているが、14本の中にはカウントしていない。帯番組をカウントすると16本になる。
【TBS】(0本)
■71年秋 14本
【フジテレビ】(7本) 『いなかっぺ大将』『サザエさん』『アタックNo.1』『アンデルセン物語』『昆虫物語みなしごハッチ』『国松さまのお通りだい!』『ゲゲゲの鬼太郎』
【TBS】(3本)『ふしぎなメルモ』『スカイヤーズ5』『原始少年リュウ』
■72年春 12本
【フジテレビ】(7本) 『いなかっぺ大将』『サザエさん』『ムーミン』『国松さまのお通りだい!』『樫の木モック』『赤銅鈴之助』『ゲゲゲの鬼太郎』
【TBS】(2本) 『ミュンヘンへの道』『海のトリトン』
■72年秋 14本
【フジテレビ】(6本) 『科学忍者隊ガッチャマン』『サザエさん』『ムーミン』『樫の木モック』『赤銅鈴之助』『ハゼドン』
【TBS】(2本) 『モンシェリCOCO』『ど根性ガエル』
■73年春 13本
【フジテレビ】(7本) 『科学忍者隊ガッチャマン』『サザエさん』『マジンガーZ』『山ねずみロッキーチャック』『ワンサくん』『けろっこデメタン』『荒野の少年イサム』
【TBS】(1本) 『ど根性ガエル』
■73年秋 15本
【フジテレビ】(8本) 『科学忍者隊ガッチャマン』『サザエさん』『マジンガーZ』『山ねずみロッキーチャック』『ゼロテスター』『新造人間キャシャーン』『荒野の少年イサム』『ドロロンえん魔くん』
【TBS】(1本) 『ど根性ガエル』
■74年春 16本
【フジテレビ】(8本) 『科学忍者隊ガッチャマン』『サザエさん』『マジンガーZ』『アルプスの少女ハイジ』『ゼロテスター』『新造人間キャシャーン』『小さなバイキングビッケ』『ゲッターロボ』
【TBS】(2本)『星の子チョビン』『ど根性ガエル』
■74年秋 12本
【フジテレビ】(7本)『てんとう虫の歌』『サザエさん』『グレートマジンガー』『アルプスの少女ハイジ』『ゼロテスター地球を守れ!』『小さなバイキングビッケ』『ゲッターロボ』
【TBS】(1本) 『はじめ人間ギャートルズ』
■75年春 16本
【フジテレビ】(7本) 『てんとう虫の歌』『サザエさん』『グレートマジンガー』『フランダースの犬』『小さなバイキングビッケ』『ゲッターロボG』『ラ・セーヌの星』
【TBS】(0本)
■75年秋 19本
【フジテレビ】(7本) 『てんとう虫の歌』『サザエさん』『UFOロボグレンダイザー』『フランダースの犬』『シンドバットの冒険』『ゲッターロボG』『ラ・セーヌの星』
【TBS】(2本) 『草原のローラ』『わんぱく大昔クムクム』
長々とタイトルを列挙したが、この通り、1週間に放送されるアニメのうちほぼ半数を、常にフジテレビが放送していることがわかる。
対して、TBSは71年に3本をカウントしたものの、あとは1~2本で推移している。
(2)に続く
[筆者の紹介]
藤津亮太 (ふじつ・りょうた)
1968年生まれ。アニメ評論家。編集者などを経て、2000年よりフリーに。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)。編著に『ガンダムの現場から』(キネマ旬報社)など。アニメ雑誌、そのほか各種媒体で執筆中。
ブログ:藤津亮太の 「只今徐行運転中」 http://blog.livedoor.jp/personap21/
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