はやぶさよ還れ(その4)
はやぶさは結局、イトカワに2度着陸した。
とくに2度目の着陸は、全てが初めて、スケジュール通りに進んで、非常にうまくいった。
ところが、司令通りに離陸して、イトカワ上空でぴたりと止まった20分後に、上面の化学エンジンから燃料漏れがはじまった。着陸時に損傷を受けたらしく、急いでバルブを閉めたんだけど、それが二度と開かず、化学エンジンは使用不可能になってしまったのね。
さらに、燃料漏れによる反力で姿勢が崩れてぐるぐる回り始め、太陽電池も光を受けられなくなって、2005年12月上旬に通信も途絶してしまった。
普通なら、これで誰でも終わったなと思うんじゃないかな。
なにせ、壊れて燃料が漏れてぐるぐるまわってロストしているわけだから。
それにまあ、イオンエンジンの実証など、主要な目的は成し遂げたわけで、ミッションはほとんど成功したといえる。まあ、こんなもんだろみたいな。
でも、川口さんたちチームはそうは考えなかった。
はやぶさは、両翼とアンテナを固定したシンプルな作りをしている。つまりコマみたいなもんだ。だから、複雑な回転がかかっても、いつかは正しい姿勢に戻ってくる可能性がある。
そこで川口さんらは、その確率を計算し、電力と通信を満たす姿勢条件が、1年以内に6~7割の確率で現れることを示して、上層部から運用継続の許可を勝ち取ったんだよね。
ただ、はやぶさからの便りを待つ間は、何の信号も届かないから、司令所にくる人も減って閑散としてくるのが辛かったそうだ。
その間、飛不動(とびふどう)とか、隼神社とか飛行神社とか電波神社とかでお札を貰ってきたり、毎日ポットにお湯を入れて、暗に運用が続いていることをアピールしてたんだって。
はやぶさは行方不明になったとき、ビーム幅の狭い中利得アンテナを使っていた。このアンテナは、真っ直ぐ地球に向かないと通信できない。また、はやぶさはスイッチが切れると、スイッチオンの司令を送らないと再起動しない。
つまり、はやぶさの姿勢が太陽光を受けられるようになって電源が回復したときに、スイッチオンとアンテナ切り替えの司令が届かないと復活はない。しかも、電源が切れて冷え切ると、受けられる電波の周波数も変化しているはず。
これらを考慮して、一周期の送信に1~2ヶ月はかかる復活司令を、来る日も来る日も送り続けた。
長丁場が予想されていたんだけど、神頼みがかなったのか、わずか7週間目、2006年1月23日にはやぶさから電波が返ってきた。生きてるよ!
もっとも、このときのはやぶさは、逆スピンしていて、少し姿勢がずれるとまたロストしかねない状態だった。しかも回転がヘンで、一周期あたり電波が受かる時間が20秒しかない。
そこで、地上の管制設備のソフトウェアを書きかえ、姿勢修の正に必要なコマンドを20秒以内に送れるように作り替えた。
問題は、何を使って姿勢を修正するかだ。
化学エンジンは壊れ、姿勢制御用のリアクション・ホイールは、イトカワ到着前に3個中2個が故障して使えない。(ちなみにこのホイールは、外国製で情報が貰えず故障原因が不明で、あと一つも地球帰還のアプローチ用にスイッチを切って温存している)
スタッフがひねり出したアイデアは、イオンエンジンの中和機から、キセノンガスをタイミング良く吹き出すことで、姿勢の制御を行うというものだった。イオンジェットの推力は8mNだけど、中和器の力は0.02mN。400分の1のわずかな力で、1ヶ月かけて探査機の姿勢を正すことに成功した。
ただ、これでは帰還用の燃料が保たない。
そこで次に、燃料なしに姿勢を変える方法が考えられた。それは、太陽光の圧力で姿勢を変えるやり方だ。太陽に対して太陽電池の翼を斜めに当てると、電力は落ちるけれど、風見鶏が風上に向かって姿勢を保つように太陽を追尾できる。
このやりかたも、ずっと昔に宇宙科学研究所の衛星で成功させていて、その蓄積が役に立って、実際に巧くいっている。
限られたリソースしか無い中、深刻なアクシデントの数々を創意で乗り切るはやぶさは素晴らしくて、なんか人生もそういうもんだよなって、勇気づけられる感じがするよね。
はやぶさは2006年7月から地球への帰還を開始し、今や、地球から4億キロを切った。帰還にはあと400m毎秒の増速が必要で、そのためのイオンエンジンの点火が、ついに行われたわけだ。
もちろん、状況は今も全く楽観的ではないけれど、予定では2010年の6月にはやぶさは地球近傍に帰ってくる。待ってるよ。ヾ(・ω・)ノ゙
最終更新時間 2009年02月27日 14:08
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「2010年」というのが感慨深いです。
ディスカバリー号のことを考えると現実には
ぜんぜん宇宙に進めてないですが、
はやぶさのことを考えると
ここまでは来てるんだなあとも思います。
投稿者 Anonymous : 2009年03月01日 06:05