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2009年3月4日

 今ごろ脚光を浴びて建築家の吉田鉄郎(1894―1956)も草葉の陰で苦笑いしているだろう

解体中に鳩山総務相に「待った」をかけられた東京中央郵便局の設計者のことである。富山県旧福野町生まれ。金沢の四高に学んだ、戦前を代表する建築家である。桂離宮を評価した建築家ブルーノ・タウトを日本各地に案内した人としても知られる

「かんぽの宿」売却を白紙にさせて意気軒昂な鳩山総務相の第2の標的になったビルは東京駅前にある。官庁らしく地味なデザインだが、丸ビルと並んで昭和初期から日本の玄関を彩っていた。歴史的価値も評価されてか、本体は取り壊しても外観の一部は保存され、完全消滅するわけではない

同じ吉田の設計になる大阪中央郵便局は再開発で完全消滅するが、東京の方だけが、鳩山さんから「国民の意見を聞きたい」と注文がついた。発言に強制力はないが、違和感はある。加えて重文指定の基準が政治家の発言で揺れ動く不可解なおまけ付きだ

もっとも、これは景観や文化の問題ではなく「政治力学」の話だというのなら、論議は別にやってもらいたい。


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