■返済条件緩和…借り手の半数「知らなかった」
東北地域で企業倒産の高止まりが続いている。年度末を控え、資金繰りの悪化から、さらなる倒産の増大を懸念する声も根強い。政府や自治体などは、さまざまな中小企業支援を打ち出しており、資金繰りに有効な手段も各種用意されているが、一般に知られていないため、利用が進まないものもあるようだ。(高山豊司)
「借り手は0・05%の金利変動にも敏感になっている」
福島商工会議所の相談員は、底が見えない景気状況下で、資金繰りにあえぐ中小企業経営者の心理をそう説明する。外需、内需とも先細るなか、企業の存続をかけて、経営の重しをわずかでも軽くしたいとの思いは切実だ。同会議所などでは、4月から、福島市内の企業に対する新たな利子補給制度を導入するという。
政府は昨年10月から、倒産で融資の返済ができなくなった場合に、国が全額肩代わりする緊急保証制度を開始し、対象業種を順次拡大してきた。各種の支援策が打ち出されていても、急速な需要減退を前に、経営者の資金繰りへの不安は増すばかりだ。
ところが、せっかく行政側が用意したのに、ほとんど周知されないまま利用が滞っている支援策もある。金融庁が打ち出した「貸出条件緩和債権の見直し」もその1つだ。金融庁が昨年11月に改定した金融機関の自己評価基準の1つ「金融検査マニュアル」に盛り込まれたもの。
これにより、金融機関に返済を一時待ってもらったり、毎月の返済額や金利自体を引き下げてもらうといった交渉が、円滑に進む可能性がある。しかし、東北財務局が1月に行った調査では、東北地方の中小企業経営者の過半数はこの見直しを「知らない」と回答、「知っている」は2割以下だった。
これまで、金融機関が返済条件の緩和を容易に認めなかったのは、返済の途中で金利や返済額の条件を緩めると、金融庁からその融資案件を不良債権に区分するよう求められる可能性が高かったためだ。金融機関は、余分に貸倒引当金を積まなければならなくなり、業績評価にも直結するとの恐れが強かった。
「返済条件緩和など、打診するだけ無駄」(東北地方のサービス業)だったが、金融庁の方針転換で借り手側が有利になったといえる。
今回の見直しがあまり知られていないのは、「予算の削減で、周知活動がほとんどできなかった」(東北財務局)という事情がある。また、借り手側の債務を国や自治体などが公的資金で保証したり、負担するといったこれまでの支援策とは違い、今回の見直しは金融機関側に一層のリスク負担を求めていることも大きい。金融機関が借り手側に積極的に利用を働きかける動機は見当たらない。
政府側は「借り手の経営に積極的にかかわり、業績や財務改善の道を探るのが金融機関の本業」(東北財務局)といい、金融機関側も「中小企業の資金繰り円滑化に適切な施策」(東北の地銀)と持ち上げるものの、「こちらから、返済条件を緩めましょうか、と切り出すことはしない」(別の地域金融機関)のが実情。景気悪化で、企業の倒産リスクが増すなか、いくら政策を転換したといっても、返済条件を緩和していいか、悪いか、金融機関のもつ判断の“ものさし”は急に変えることもできない。
とはいえ、借り手の企業にとっては、経営の手足を縛る債務を軽減できるチャンスであることは間違いない。未曾有の不況を乗り切るために、企業側も制度変更などへのアンテナをさらに広げる必要がありそうだ。
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■貸出条件緩和債権の見直し 金融庁の金融検査マニュアルの改定で盛り込まれた。従来のマニュアルでは、返済条件を緩和する場合、金融機関は借り手から、3年先までに状況が好転する見込みを示した経営改善計画を文書で提出させたり、返済期間を延ばす場合は金利を引き上げることなどが求められており、そうした対応ができないと、債務区分を引き下げなければならなかった。
今回の見直しでは、借り手側は概ね5年先までの経営改善計画を提出すればよく、金利の引き上げなども、基本的に不要となった。
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