伊丹市で今年1月、交通事故で重傷を負った男性が14もの病院から搬送を断られ、約3時間後に死亡した問題が起こった。いざという時、119番は文字通り、命綱だ。その中枢はどうなっているのだろうか。先月のある夜、午後8時から4時間、伊丹市消防局の通信指令室に入った。【池内敬芳】
電話が鳴り、ランプが緑に点灯した。通報だ。隊員は、通報者に住所、氏名、電話番号を尋ね、病状を聞いたうえで、内容を確認するように問い返す。「頭が痛い?1時間以上続いている?」。この時点で既に、パソコン画面には通報地点周辺の地図が示され、近くの消防署、出張所には出動の予告が出ている。
通報によると、激しい頭痛が長引いているらしい。別の隊員がさっと席を移動し、病院の診療科目リストが見られるパソコンで内科医を探す。そうしている間にも、正面の表示板には救急車出動が表示された。内科医の情報を救急隊に伝える。
そうするうちに、また119番。忙しくなってきた。別の隊員が話を聞く。しかし、頭痛の時とは様子が違う。緊迫感がない。「かぜ?もともと扁桃腺(へんとうせん)が悪い?」。この時間に診察してくれる耳鼻科はないか、という問い合わせだった。市内に耳鼻科の当直医はいない。隊員は大阪市の病院を紹介した。
別の電話。隊員は「ゆっくり、大きく息を吸って。大丈夫ですよ」と受話器に向かって語りかけた。出動要請ではないようだ。聞くと、自ら精神的な病気だと告げ、パニックで息苦しいと通報してきたという。「いつでも救急車が来てくれると確認できたら、パニックがスーッと引いたようです」。珍しいことではないという。
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指令室取材を許された4時間で、通報は7件だった。08年の通報件数は1万4986件で、1日平均41件だから、この夜はおおむね、いつも通りの夜だったことになる。だが時には、死亡した男性のケースのように、通報が相次ぎ、バタバタした状況になることもある。通信指令の仕事は24時間制。6人の班員のうち、最低4人が働いている。電話がそれを上回れば、処理し切れない場合もあるのだ。
指令室を監督する谷口豊美・情報管理課長は、「あの件の後、救急隊と指令室の連携を緊密にしていくことを確認した。指令室の負担を増やさないためにも、病院の問い合わせなどで119番を使うのは、やめてほしい」と話していた。
〔阪神版〕
毎日新聞 2009年3月3日 地方版