タイで開いた東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議が、地域統合や経済危機の克服、人権尊重など幅広い分野で意欲的な宣言を採択した。目標や行動計画を高く掲げた点は評価すべきだが、立派な国際公約の裏側にある不安定な政治、経済の状況を見逃してはならない。
一連の会議で発表した文書は20種類以上、合計100ページ以上と膨大だ。首脳会議の成功と域内の結束を印象づける思惑がうかがえる。経済危機の局面で、ASEANの安定性を疑問視する声が世界に広がるのを懸念した結果と考えるべきだろう。
各文書に重要な内容が盛り込まれたのは事実である。人権の促進と擁護を担う「ASEAN人権機構」を今年中に設立するほか、貿易保護主義の台頭に対抗する決意や、財政・金融政策での協調も表明した。
欧州連合(EU)のような地域統合を実現し、2015年を目標に共同体を構築する道筋も描いた。07年に決まった「経済」に加えて「政治・安保」「社会・文化」の工程表がそろったのは前進といえる。
問題は説得力だ。格調高いASEAN首脳宣言の「建前」とは別に、加盟各国の「本音」を読み取らなければならない。現実には会議ではミャンマー民主化問題に踏み込めず、各国は自由貿易協定(FTA)の実質的な不履行など、保護主義的な政策に走っている。
ASEAN各国には1997年の通貨危機の苦い記憶がある。域外からの投資は再び減少しつつあり、先進国への輸出も急減している。経済が苦しいからこそ、投資マネーを呼び込むために統合への意志や地域の安定性を強調する必要があった。
政情不安のタイだけでなく、他の国々も国内政治に悩みを抱える。フィリピンは政局の混乱が続き、マレーシアは3月末にも政権交代の可能性がある。インドネシアは4月に総選挙を実施する。各国の現政権は、地域統合より内政や国内の支持強化を優先せざるを得ないだろう。
ASEANは日本の製造業の拠点であり、同地域の経済不振は日本の景気に直結する。結束力が働きにくいASEANの現状を見据えて、日本は東アジア全体の経済安定を目指す外交政策を展開すべきである。