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社説:ガザ復興会議 「卵」の願いを生かす支援に

 イスラエルの文学賞「エルサレム賞」を受けた村上春樹さんは記念講演で「高くて頑丈な壁と、壁にぶつかれば壊れてしまう卵があるなら、私はいつでも卵の側に立とう」と語った。

 約1300人のパレスチナ人が死んだイスラエルのガザ攻撃に関連した発言である。イスラエルが悪いのか、ガザのハマス(イスラム原理主義組織)が悪いのかはともかく、武器を持たない市民たちが次々に死んでいくやりきれなさは、広く国際社会が共有する感情に違いない。

 エジプトの保養地シャルムエルシェイクで開かれたガザ復興支援の国際会議に約80の国・機関が参加したのも、ガザの「人道危機」を何とかしたいという思いからだろう。サウジアラビアが10億ドル、米国が9億ドル、そして日本は2億ドルの拠出を表明し、総額50億ドル近い支援が集まったという。

 ガザでは家屋4000棟以上がイスラエルの空爆などで全壊し、多くの病院や学校も壊されて復興に必要なお金は約28億ドルと見込まれている。まずは予想を上回る拠出表明があったことを喜びたい。そして、この貴重な国際支援が、本当に困っている人に届くよう願わずにはいられない。

 しかし、イスラエルがガザ封鎖を続ければ十分な支援活動はできない。ハマスがロケット弾を撃ち込むなどしてイスラエルを挑発すれば、やはり支援活動は滞る。すぐに壊れてしまいがちな「卵」たちの声なき声に耳を傾けつつ、紛争当事者は自制すべきである。

 今のパレスチナは、アッバス自治政府議長率いるファタハがヨルダン川西岸を、ハマスがガザを支配している。国際会議には、米国がテロ組織とみなすハマスは招かれなかった。初めて本格的な中東歴訪を始めたクリントン米国務長官は、支援がハマスの手に渡ることに反対している。

 だが、サウジ、クウェート、カタールなどのペルシャ湾岸産油国は総額16億ドルの支援をハマスを通しても行う構えで、ガザに合同事務所を置いて再建を支援することも検討中とされる。それは、汚職体質が言われて久しいファタハへの不信感の表明であり、イスラエルを支援してハマスを毛嫌いする米国への間接的な批判とも受け取れよう。

 実際、ハマスだけを悪者にしても問題は解決しない。ハマスが80年代に旗揚げする前からパレスチナ問題は存在する。そして、米国はブッシュ前政権の8年間、仲介らしい仲介をせず、本格仲介といえばクリントン元大統領による00年の3首脳会談までさかのぼる。

 「イスラエル寄り」とされるクリントン長官も、大統領夫人時代はパレスチナ独立を支持する発言をしていた。米国による仲介の重要性は十分認識しているだろう。今回の歴訪が「2国共存」へのスタート台となるよう期待したい。

毎日新聞 2009年3月4日 東京朝刊

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