タイ中部フアヒンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、世界的な経済危機を克服するため域内の連携強化や日中韓を含めた東アジア地域などとの経済協力を拡大することなどを盛り込んだ声明を発表し閉幕した。
二〇一五年のASEAN共同体実現に向けたロードマップ(行程表)に関する宣言にも署名し、政治・安全保障と社会・文化の実行計画が採択され、〇七年の経済分野と併せ三分野の計画が決まった。
今回の会議は、民主主義強化や人権尊重、単一市場の創設を盛り込んだ加盟十カ国の最高規範となる「ASEAN憲章」が昨年十二月に発効した後、初めて各国首脳が顔を合わせる場となった。議長国タイの内政混乱で開催が遅れていた。
経済問題では、外貨を融通するASEANと日中韓の通貨交換協定の資金規模の拡大を歓迎するとともに、世界に広がる保護貿易主義に反対を表明し、新たな貿易障壁をつくらないことを確認するなど一致した姿勢を示すことができた。
問題は人権・民主化問題で、消極的な姿勢に終始したことだ。議長声明では、民主化勢力へ弾圧を続けるミャンマー軍事政権に対し、政治犯の釈放と総選挙にすべての政党が参加することを促した。しかし、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんを名指しして自宅軟禁からの解放を求めた昨年七月の外相会議声明と比べれば、内容は後退である。
ミャンマーからイスラム教徒少数民族ロヒンギャが船でタイやインドネシアに漂着している問題についても、有効な救済策が打ち出せなかった。
人権状況の改善に新たな役割が期待される「人権機構」は、強制力を持たない諮問機関を今年中に設置することで一致したもようだが、「(それぞれの)国情に配慮する必要がある」との意見が大勢を占めた。実効性には大きな疑問符が付いた。
会議ではタイの提案で、各国首脳と加盟国の市民団体代表が対話する試みも行われたが、ミャンマーとカンボジアの首脳は自国の活動家の出席を断固として拒否した。ASEAN憲章に盛り込まれた「内政不干渉」のルールが、問題解決を妨げる要因となっている。
歴史的に一体感のある欧州連合(EU)でさえ発足するまでには長い歳月がかかった。ASEANの統合へは、民主化の価値観共有が不可欠だ。腰を据えた取り組みが必要である。
障害者団体の定期刊行物向けの郵便料金割引制度を悪用し、ダイレクトメール(DM)の発送料を免れたなどとして大阪地検特捜部は大阪市の広告代理店「新生企業」(現・伸正)の社長と元取締役を郵便法と法人税法違反の疑いで逮捕した。
標的にされたのは「心身障害者用低料第三種郵便物」制度である。刊行物が毎月三回以上の定期発行で一回の発行部数が五百部以上、八割以上が有償購読―などを条件に郵便事業会社の承認を受けて利用できる。
調べによると、両容疑者は二〇〇六―〇八年、石川県に本社のある印刷・通販大手の通販DMを、障害者団体が発行したと偽った定期刊行物と合わせて割引制度を利用した。五十グラム以下は通常一通百二十円かかるのを八円で済ませ、計約六億五千万円を不正に免れたとされる。さらに法人税約八千六百万円を脱税した疑いも持たれている。
福祉の向上を支える制度を食い物にして私腹を肥やすとは言語道断だ。新生企業は、障害者団体に「刊行物の制作はすべてこちらでやるから大丈夫」「いくらかお金も支払える」と持ちかけるなどの手口で同制度の利用を申請させ、広告主にも「安くDMができる」と言葉巧みに誘い込んだという。制度の悪用で免れた総額は百億円を上回るともみられている。
新生企業の悪質さは言うまでもないが、それを許した側の認識の甘さも問題だ。利益になることや福祉への貢献をアピールできるといった心のすきを突かれた形だ。郵便事業会社の管理体制のずさんさも問われる。容疑者は長年にわたる制度の悪用を認めているそうだ。厳格に対処していれば防げたはずだ。再発防止へ、真相の徹底解明とともに事件の教訓を踏まえた対策の見直しを求めたい。
(2009年3月3日掲載)