2009年3月4日3時2分
熊本県の社会科教師らでつくる研究団体が作った県内の中学2年向け社会科の学力テストで、同県の川辺川ダム建設への賛否を問う問題が出され、ダム計画を巡り対立が続く地元の一部中学校が「子どもたちの不安と動揺を招く」として、テストの実施を見送っていたことがわかった。一方、専門家からは「社会への関心を高めるのに役立つ」との指摘もある。
県中学校教育研究会社会科部会が08年11月、地理分野の問題として作成。「川辺川ダム計画に賛否双方の意見があり、解決の見込みがない」と現状を紹介したうえで、賛否と理由を書くよう求めた。理由が論理的かが採点のポイントで、配点は50点満点の1点だった。今年1月18日までに同県内の150校が実力テストなどに使い、生徒約1万7千人が受けた。
同部会は「近い将来、公民となる中学生が社会への関心を高め、公民的資質を育てるようにと考えた」と出題の意図を説明する。
だが、ダムへの賛否を巡り、地元・人吉球磨地方は長年にわたって対立と混乱が続いている。同地方の13校がテスト問題を取り寄せたが、5校はテストを取りやめ、1校は川辺川ダムの設問部分に線を引いて、解かせないようにした。1月下旬に同地方の学校から問題視する意見が熊本県教委に寄せられた。
県教委義務教育課は「関係者の心情を思うと不適切。判断の根拠となる資料もなく、出題は配慮を欠いている」と批判。問題のチェック態勢の充実などを同部会に求めた。
同部会会長の佐竹博・熊本市立城南中学校長は「配慮を欠き不適切だった。誠実に保護者や生徒に対応したい」と話している。
■出題された問題
川辺川ダム建設計画は1966年に始まったものの、賛成・反対派双方の意見に決着がつかず、いまだに解決の見込みがありません。あなたは、この川辺川ダムの建設に賛成しますか、反対しますか。賛成・反対のいずれかに丸をつけて、その理由を書きなさい。
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日大文理学部の広田照幸教授(教育社会学)の話 学校教育は現実の社会と切り離されているのが現状だ。子どもを現実から保護したいとの考えは分からなくはないが、社会問題など、正解が一つでない問題に対して自分なりに考えて意見を言う教育を、学校でもっとやってもいいと思う。