● フィギュア・エキシビジョン
今朝、トリノ・オリンピックのフィギュアのエキシビジョンが行われたのを観た。
私は 以前『カタリナ・ビット』という記事で述べた様に、フィギュアの本戦を観るのも好きだけど、最も大好きなのは 闘いが終わった後で行われるエキシビジョンが大好きなのだ。
このエキシビジョンとは ハッキリ言って、ショーであり競技では無い。
にも関わらず、競技の場であるオリンピックにおいて 唯一、競技ではない公式イベントとして存在するわけで このフィギュアのエキシビジョンは オリンピックだけに限らず、世界大会など大きなフィギュアの国際大会でも最終日に行われ、フィギュア・ファンの中には「本戦はどうでも良い、俺はエキシビジョンが観たいんだ」と公言して憚らないファンがいるほどで かくゆう私も それに近い。^^;
しかし、今朝観て あらためて思ったけど、
オリンピックのエキシビジョンは他の国際大会とは比べようもなく素晴らしいね。
選手達は 長い期間、オリンピックに勝つ為に必死で練習を積んでくる。
マスコミを筆頭に いろんなプレッシャーに責め立てられ、本戦ではミスをしないようにと いろんな緊張に縛られる。
だから、そんな場で「場の雰囲気を楽しむ」なんて真似は生易しい事では無く、どんなにリラックスして笑顔を浮かべていても やはり、どこかに張りつめたものがある。
たとえば、女子シングルで三位になったアメリカのコーエンは 哀しいかな、そんなプレッシャーに弱いようで 過去の大会でもそうだが、SPでは素晴らしい成績なのだが、本戦では緊張に負けたかの如く転倒するなどミスを連発してしまう。^^;
昔、1976年のインスブルック、1980年のレイクプラシッド大会に 渡部絵美という選手が日本から出場した。
特に1980年のレイクプラシッドの時には「絶対に金を獲ってくれるんじゃないか」という物凄い期待が彼女を押しつぶしたと言って良い。
私は いつも思うんだけど、なんで期待するならば 選手が万全の態勢で臨めるように そっと静かにほっといてあげないのだろう?と。
まぁ、世界で優勝するぐらいの選手になるためには ちょっとやそっとの取材攻勢やプレッシャーなんかに負けちゃいけない…というのは判らなくも無いが、ファンであるならば 選手の邪魔をしないのも大事なマナーだと考えるべきなんじゃないかな
で、結果的に1980年のレイクプラシッド大会に 渡部絵美は6位に終わる。
この時、4位に終わったのが スイスのデニス・ビールマンで
そう、今ではお馴染みのビールマン・スピンを世界で初めて 国際大会で披露した選手。
このビールマンこそ、「金メダル確実」と前評判の高かった選手だったが やはり、プレッシャーに負けたかの如き失敗を犯し、メダルを逃した。
ちなみに、今回の荒川静香で評判になった「イナバウア-」とは 昔、西ドイツの「イナ・バウアー」という選手が初めて行った技だから、「イナバウアー」と名が付き呼ばれているが、この「イナバウアー」というのは
荒川のように仰け反った上半身の方に目がいってしまうようだけど、実は 身体全体のポーズが「イナバウア-」ではなく、
下半身の形の事が「イナバウアー」で 試しにやってみると判るけど、左足のつま先を 身体の真左に向け、左膝を90度近くまで曲げる そして、右足を身体の後ろに出来るだけ膝を伸ばして下げ、右足のつま先は身体の真右に向ける… (右に回転する場合は 左右を逆に)
その下半身の姿勢を維持して 出来るだけ直線的に左に平行移動する技を基本的に「イナバウアー」と呼び 荒川が見せる上半身を仰け反らせるポーズは 身体の柔らかさや美しさを表現するものなのであり、当然、難度が数段高いのだ。
さて…、1988年のカルガリー大会の時に 日本から 伊藤みどり、八木沼純子が出場し、特に その時の伊藤みどりは 今では多くの選手が見せる「トリプル・アクセル(3回転半ジャンプ)」を 当時、世界で初めて跳べる選手として大きな期待が寄せられた。
で、実は その時までフィギュアのコアなファン以外、フィギュアにエキシビジョンがある…と言う事を(国際大会でメダルを獲った選手がいなかった為)知られていなかったのだが、このカルガリーの時に有力選手だったカタリナ・ビットが 大会前のインタビューで なにげに伊藤みどりについて「観客はゴム・ボールがピョンピョン跳ねるのを見に来ているわけでは無い」と発言した事が「フィギュアスケートは、芸術かスポーツか」という論争を生み 後に「コンパルソリー」と呼ばれていた規定種目が廃止されるキッカケともなる。
結局、本戦では カタリナ・ビットがカナダのマンリーやアメリカのトーマスに僅差ながらも得点が上回り金メダルに輝いたのだが、芸術性が乏しいながらも躍動感溢れる伊藤みどりの演技に観客がスタンディングオベーションで絶賛した結果、当時はメダルを取らなければ出場できないとされていたエキシビジョンに 伊藤みどりは特別参加を許され、それを日本国内に衛星中継した事から「エキシビジョン」を 初めて目の当たりにしたファンが多いのである。
でね、その当時の日本人達は マスコミに煽られたせいもあり、「伊藤みどりが 絶対に金メダルを獲る」って信じていたし、実際に 本戦の演技を他の選手とも見比べて「せめて三位でも良かったんじゃないの?」と 競技採点に不信感を抱いた人も多かったのだが…
エキシビジョンを観て「あ~ これじゃ勝てない」「根本的な実力や考え方が 全然、世界のトップレベルと違うじゃん」と 思い知らされたのである。
ビットやトーマスは 本戦を終え メダル獲得という栄誉の喜びもあるのだろうけど 実にリラックスして優雅に しかも、観ている者も感動するぐらいに 楽しそうに舞っている。
しかも、最初から「私はメダルを獲るんです」と確信していたかの様に エキシビジョン用の衣裳と曲と振り付けまで用意していて 挙げ句の果てには東ドイツのカタリナ・ビットが アメリカのマイケル・ジャクソンの曲で 見事にムーンウォークを滑って魅せたのだ。
そういう姿を見た当時の日本の多くのファンは「底力が 全然、違ってるんだから 伊藤みどりが5位になれただけでも 実は”凄い”と喜ぶべきだった…」と認識を改めたのだ。
で、こう言うと 世の女性達から怒られるのだろうとは思うけど…
伊藤みどり、渡部絵美… たしかに人気・実力共に 当時の日本ではトップ・スケーターだったのだが、世界大会やオリンピックで観る他国のトップ選手達と比べ 日本人独特の ずんぐりむっくりな体形や 御世辞にも軟らかいとは思えない身体の柔軟性など バレエ等の いわゆる芸術的分野の素養の乏しさは如何ともし難いのかな…と思っていたわけだが…
荒川、村主、安藤… 今回の3選手を観ていて ついに、日本の選手も全く他国の選手と遜色ないレベルに達したのだな…という感慨が深い。
で、とうとう荒川が金メダルに輝き、迎えたエキシビジョンを観て…
私は 本当に感動して泣いたね。^^
昔、初めて観たエキシビジョンでの感動が甦り、それが日本の選手の姿だという事に感動し、スルツカヤやコーエンなんか足元にも及ばない優雅な軟らかい滑りを
エキシビジョンで見せつけてくれて プレッシャーなどから開放された時の本当の底力の違いの しかも、そのレベルの高さを魅せてくれたのに心底、感動した。
たぶん、このエキシビジョンは 一生忘れられないと確信する。
ラストのスピンの左手の動きには まさに水面に浮かぶ白鳥が見えたもん。
あの時のビットのエキシビジョンを塗り替えてくれる記憶のプレゼントに 只々、感謝するばかりだ。
【管理人追記(2月26日)】
Wenさんへのコメントに書いた事なんだけど…
浅田麻央か安藤美姫 御願いだから 次のオリンピックのフリーで「朔と亜紀」で滑ってくれないかなぁ…
【管理人追記(2月28日)】
Mintさんから頂いたコメントに関連する画像を 上に2枚追加しました。