ここから本文エリア 企画特集(2)
(上)まちづくりプランナー 高田昇さん2009年03月03日
橋下徹知事が主張する、府庁のWTC移転案。開会中の府議会で、本格的な論戦が始まっています。移転したら、大阪はよくなるのでしょうか。それとも……。まちづくりの専門家や経済人などに、意見を聞いてみました。 ■「まず箱モノ」時代遅れ ――府庁のWTC移転、どうみますか 府と市のトップが「大阪をこういう街にしたい」というイニシアチブを出したのは初めてでしょう。官僚主導から脱皮した首長だったからできたこと。水と油だった府市のトップが連携して夢を語ったことは、大阪の「失われた50年」を克服するきっかけになりうると思いますよ。 それに、機能を中心部に集中させず、空いているところに移すのは都市計画の一つの方法です。大阪城、難波宮という歴史のある大手前に今以上の過密な機能を持ち込まず、南港を活性化させて都市機能を移す。中心部は歴史・文化の町としてとらえる。これは選択肢としてあっていい。 そもそも、府庁移転は府民生活を大きく変えるものではありません。府庁に行くのは行政関係者と許認可を求める業者ぐらいで、府民は府庁の場所にそれほど関心はない。府民の3人に1人は大阪市民なわけだから。WTCへの移転が大阪市の危機を救うなら、それだけでもプラスでしょう。何よりすぐ移転できる。デメリットはほとんど無い。 □ ■ ――WTC移転は正解、ですか 現実的にあっていい答えだとは思いますが、問題なのは、府市が共同で発表した都市構想案が非常に時代遅れなことです。 この案を読むと、関西空港のときと、ほとんど同じことを言っている。移転すれば周りにコンベンション施設ができるとか、情報発信できるとか、そんなこと全く関係ないですよ。真剣にやれば、府庁が来なくたってできることです。府庁があって変わるなら、大手前も変わってるはずでしょう。現実はただのビジネス街じゃないですか。 都市構想は本来、時間をかけて、今の大阪に何が欠けていて、大阪を何で再生させていくのかを分析して、そのために何が必要かを考えないといけない。コンベンションは発信する情報があって、人をひきつける魅力があって初めて成り立つ。その魅力をどうつくるかが先でしょう。まず箱モノをつくるという20世紀型の機能論でなく、大阪が世界に発信する創造的な新しい情報を蓄えるために、それを育てる機能を作ることから物事を考えないと。 □ ■ ――構想案では「関西州を見据えた広域的機能」「アジアとの交流拠点」と言っています それはどこだってありえるでしょ。梅田・北ヤードでも、関空近くのりんくうタウンでもいい。場所の問題じゃなくて、大阪が本当に関西の中核たる力を持つかどうか。今、京都、神戸からみたら大阪はひとつの地方都市でしかないですよ。オバマさんの言うようにチェンジはカンフル剤になりうるが、カンフル剤だけに終わるおそれも十分ある。今の構想案は「何を変化させないといけないか」が欠落していて、カンフル剤以上のものは持っていない。 □ ■ ――ではどうすれば これまでビッグプロジェクトがさんざん失敗してきたことを考えると、21世紀型の街づくりは「身の丈再開発」がキーワード。できることを見すえて、小さくてもいいからできることを積み上げる。 いまの南港に行くと、あれくらいの開発をすれば行ってみたくなるカフェなどがあるのが普通なのに、そうなってない。そこに来る人、暮らす人が何を求めているかに答えることを考えたらああいうことにはならないでしょう。 府庁移転が決まったら、構想案を白紙に戻し、一から作り直した方がいい。原点は、どんな街が人にとって魅力があるかという視点。まず職員が地域に、現場に行って、住民や民間が何を求めているかを知る。そのうえで、計画の策定過程をオープンにして府民・市民、経済人、専門家が知恵を出し合う。計画の仕組みづくりが変化の鍵を握っていると思います。 面白いのは大阪城周辺。30年以上前から、大阪人が客人を連れて行く場所として不動の1位ですが、府市はこの価値をどう生かすか真剣に考えてこなかった。大都市の真ん中にこれだけの歴史と緑地を持っているのは資産です。府は民間のいい提案を引き出して、歴史、文化、景観を重視したまちを目指してほしい。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― たかだ・すすむ まちづくりプランナー。COM計画研究所代表。富田林市寺内町の歴史的町並み保存・活用や阪神淡路大震災後のまちの復興事業計画づくり、コーディネートなど、関西を中心に、地域に即した提案・実践を続ける。
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