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2009年3月3日

◎高峰譲吉の映画化 郷土の偉人から大志学びたい

 金沢、高岡ゆかりの世界的化学者、高峰譲吉の映画化が決まった。消化薬「タカジアス ターゼ」の開発やアドレナリンの発見など、化学史上に刻まれる業績は国際的に高く評価されながら、生い立ちや人物像などは地元でも意外と知られていないのではないか。映画化で光が当てられれば、昨年製作された八田與一技師(金沢出身)のアニメ映画「パッテンライ!!」に続き、郷土ではぐくまれ、世界で花開いた大志を、広く、分かりやすく、現代に伝えることになろう。

 メガホンを取る市川徹監督は、氷見市出身の実業家、浅野総一郎を描いた映画「九転十 起の男」三部作を手がけ、その中で浅野と接点のあった高峰譲吉の偉大さを再認識し、映画化の思いを強めたという。新薬研究に情熱を注いだ時期に焦点を当てたいとしており、それは医薬分野の開発競争が熾烈さを極める、この地域の現在の姿にも重なる。景気が急速に悪化し、社会全体に沈滞ムードも漂うなか、身近な歴史上の人物から閉塞感を打ち破るヒントを得ようとするなら、高峰は格好の素材といえるかもしれない。

 高岡に生まれ、金沢で育った高峰譲吉の顕彰会は両市にある。それぞれ子どもたちを対 象にした「高峰賞」「高峰科学賞」を設け、科学教育の振興をめざしている。加賀藩医の子で、藩の選抜により十一歳で長崎に留学した高峰は、その時代に科学分野で人材を輩出した郷土の象徴的な存在といえ、世界的な仏教哲学者、鈴木大拙にも決して劣らぬスケールの大きさをもつ。その功績を学ぶことは、ふるさとへの誇りや愛着にもつながるはずである。

 地元への提言としては、神通川に発電所をつくり、高岡にアルミ産業をおこす構想もい ち早く発表している。映画化は高峰を通して、ふるさとの土壌をさまざまな角度から照射することになろう。

 偉人の実像に迫るうえで映画化は極めて有効な手法である。人々の心を揺さぶるのは一 つ一つの功績以上に、それを成し遂げる過程の人間くさいドラマや生き方そのものだろう。映画がもつ力を最大限に引き出す作品を期待したい。

◎株買い取り制度 市場介入もやむを得ぬ

 市場の自律性をゆがめる恐れのある株価対策は、平時なら「禁じ手」だろう。だが、百 年に一度といわれる金融危機に直面し、株式市場は売り手ばかりで買い手がおらず、需給バランスが大きく崩れている。株価を下支えする緊急避難的な「市場介入」はやむを得ない。

 政府・与党の新たな株価・金融安定化策は、「銀行等保有株式取得機構」の株式買い取 り範囲を、銀行と企業の持ち合い株以外にも広げ、政府保証付きの公的資金で市場から直接、株式などを買い上げる案が柱とみられる。人為的に需給ギャップを埋め、売りが売りを呼ぶ「負のスパイラル」に歯止めを掛ける狙いである。

 市場では、ニューヨークダウ平均の七〇〇〇ドル割れ、日経平均の七〇〇〇円割れが強 く意識されている。市場心理が「陰の極」にあるなかで、〇八年度二次補正予算に盛り込まれた二十兆円の政府保証枠を利用した株式買い取りが実現すれば、需給面だけでなく、市場のムードを一変させるだろう。

 そもそも日本の場合、金融システム不安の主因は、欧米のような金融機関の経営危機で はなく、株安による含み損の問題が大きい。昨年九月のリーマン・ショック以降、投資家のリスク回避姿勢が強まり、外国人による売越額だけで約五兆円に達するとされる。集中豪雨のような売りを吸収する受け皿があれば株価は安定し、金融機関の含み損も増えない。金融機関は自己資本の減少におびえることなく、企業向けの貸し出しに専念できるようになる。

 欧米諸国は巨額の公的資金をつぎ込んで金融機関の救済に懸命である。日本も株価維持 に本気で取り組み、市場を取り巻く重苦しい空気を一掃したい。

 銀行等保有株式取得機構の買い取り対象を、銀行が保有する社債や転換社債(CB)に も広げるには、国会で審議中の株式取得機構の関連法案の修正が必要となる。買い取り範囲拡大を目指す付帯決議をして、同法案を早期成立させた後、法改正に着手する方向だろう。野党との調整を急ぎ、三月期末に間に合わせてほしい。


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