
高速機動船RIHBを駆って想定不審船の右舷中央部に接舷、縄ばしごで素早く乗船する海自特別警備隊の隊員。RHIBは直ちに離脱する(写真はいずれも6月28日、広島・宮島周辺海域で)

89式小銃で四方を警戒する黒ずくめの特警隊員を乗せて、高速機動する2隻の特別機動船RHIB
編成も装備も非公開
平成11年3月、能登半島沖で不審船事件が発生。これを受けて海自は特殊部隊創設に着手し、13年3月27日、特別警備隊が隊員約70人で発足した。英語表記の「Special Boarding Unit」から「SBU」とも呼ばれる。任務は、海上警備行動時に不審船の武装解除を行うこと。現在の編成、個人装備、指揮系統など、部隊の戦力を推測できる情報はすべて非公開とされている。
その特警隊がついにベールを脱ぐとあって、この日は約50人の報道陣が呉基地に集まり、護衛艦「やまゆき」に乗艦して宮島南沖の展示海域に向かった。到着直前、不審船役を務める水中処分母船(YDT)4号の船影が「やまゆき」左舷側後方に見え、その背後に2隻のゴムボートがあった。RHIBだ。
展示はRHIBの高速機動で開始。RHIBは1隻ずつ「やまゆき」を追い越し、Uターンして左舷側約30メートルの海面を跳ねながら、飛ぶようなスピードで後方に航走する。黒いボート上には黒ずくめの特警隊員が89式小銃を構えてびっしりと乗り込んでいる。
RHIB2隻が並んで高速機動、蛇行機動を披露した後、立ち入り検査要領の展示が行われた。後方にいたYDTが150メートルの距離をとって「やまゆき」左舷側に並ぶ。右舷側前方からSH60J哨戒ヘリが飛来し、後方を回りこんで不審船役のYDTを上空から警戒する。開け放ったドアから特警隊員が89式小銃を不審船に向けている。
後方からRHIBが猛スピードで不審船に接近。右舷中央部と後部に1隻ずつ接舷し、特警隊員が縄ばしごを上って次々に乗り込み、船内に散った。小銃を構えて船橋に上った隊員たちが操舵室に飛び込む。
上空で援護に当たっていたSH60Jが不審船の後甲板に接近すると、ロープが下ろされ、隊員がリペリング降下で移乗した。立ち入り検査に抵抗した船員役の隊員5人が特警隊員に拘束され、両手首を後ろ手に縛られて後甲板に集められた。展示はここで終了。
今回は広報展示とあってあらかじめ不審船に縄ばしごが掛けられていたが、実際にはRHIB側からロープを掛けるか、ヘリで降着した隊員がロープを下ろすなどの方法がとられるようだ。また、個人装備も今回は89式小銃だけだったが、特警隊が他にどのような個人装備を持っているかなど、実態は依然ベールに包まれている。今回はその能力のほんの一部が公開されたが、本来の実力は未知数だ。
大瀬戸功海幕広報室長は「部隊の能力に関わる部分の公開は差し控えさせていただいたが、特警隊がどういう活動をしているかについてはご理解いただけたと思う」と話している。