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【くにのあとさき】東京特派員・湯浅博 日本が450万人の国なら
麻生太郎首相や民主党の小沢一郎代表ら実力政治家に会ったら、こんな質問をしてみたい。
「もし、あなたが人口450万人、淡路島と同じ面積しかない小国の指導者だったら、どんな国家戦略を描きますか?」
その都市国家には石油資源がない。わき出る水もなければ、人手のかかる農産物もできない。これらすべてが外国依存である。あるのは交通の要衝として地理的な優位性と、彼らの頭脳だけだ。
この限られた条件下で、指導者は国民の「繁栄」と「安全」を確保するために政治構想力を駆使するしかない。日本の政治家が得意な政争術など何の役にも立たない。悪いことに金融危機がこの小国にも襲いかかった。
さて、人口1億人の国の政治指導者が、あるとき450万人の小国の指導者になったら、どう知略をめぐらすか? それを考えたら夜も眠れないはずだ。
こんな過酷な条件の中で、1人あたりのGDP(国内総生産)を世界トップ級に押し上げている都市国家がある。赤道に近いシンガポールだ。
彼らは世界より「半歩先行」することで、魅力ある都市国家をつくり上げていた。“南洋の淡路島”を「繁栄」させるには、外国からカネとモノを呼び込むしかない。若き指導者たちが打ち出したのは、スピードと実力主義を国家戦略に取り込むことだった。
チャンギ国際空港に降り立つ。登録者は指紋読み取り装置に指をかざすだけで通関できる。タクシーは道路上方の道路料金システムが感知して高速料金が引き落とされる。港では人工知能技術で通関と荷揚げが自動的に行われる。
一連のシステムが作動したのは10年以上も前になる。日本の閣僚や野党幹部が有り難がって視察にいく。なんと、これら最新技術のすべてが日本製で、ご禁制品を海外に見に行くようなものだ。
日本の技術がシンガポールで導入できて、日本でできないのはなぜか。一時の混乱を恐れる官僚の尻込みと、政治家の決断力のなさにつきる。
当時、シンガポール政府が「半歩」どころか「1歩先行」のため次に目をつけた分野があった。バイオテクノロジーを駆使した医療技術と医薬品開発である。
あれから10年後のシンガポールを、NHKが報告していた。研究施設「バイオポリス」には、すでにクローン羊を生んだ英国のコールマン博士や日本人研究者が破格の待遇で招聘(しょうへい)されていた。
優秀な人材はどんなに高額でも外国からリクルートする。迎える国民は、落ちこぼれると惨めだから教育熱心である。「行き過ぎた管理社会」と批判されても、彼らは生き残りの方にかける。
この効率重視で「繁栄」を支えるとしても、いま一つの「安全」はどうやって保障するのだろう。
周辺には分離独立したマレーシア、世界一のイスラム人口を抱えるインドネシアがある。国土と人口の脆弱(ぜいじゃく)性を、米海軍の空母に寄港地を提供して同盟と同じ機能をもたせてしまう。
わが日本の周辺にもロシア、中国、北朝鮮の核保有国と核開発国がある。これに対して攻撃力の米軍と防衛力の自衛隊がセットで抑止効果をあげている。まともに考えれば、小沢代表のように「米海軍第7艦隊だけで十分」など横柄な態度はとれない。
1億人の政治指導者はどこまでも呑気(のんき)である。いつになったら、「繁栄」と「安全」の国家戦略を語れるのだろう。