いじめや個人情報の漏えいなど、ネットがらみのトラブルが深刻化するなか、主な機能は「通話」だけという子ども向けの携帯電話が2社から相次いで発売された。親が設定を変えない限り、メール機能は使えないしネットにも接続できない--というのがうたい文句。子どもたちを携帯トラブルから守る切り札になるのだろうか?【山本紀子】
進学、進級を控えた3月は子ども向けの携帯が最も売れる。今シーズン、子ども向けの新機種としては、auのジュニアケータイ「K001」とNTTドコモのキッズケータイ「F-05A」2種が店頭に並んだ。使用者に想定しているのは両機種とも小学生だ。
ドコモ携帯は最初からメールやネット機能にロックがかかっているのが特徴。「安全安心を前面に打ち出した。今後、子ども向けの携帯はすべてこの機種に切り替えていく」とドコモの担当者。またau携帯は、親が初めにメールやネットの利用制限をかける必要があるが「これまでの機種より操作が簡単」とアピールする。
つまり、メール、ネット機能が不備なのではなく、親が暗証番号を打ち込んでロックを解除すれば問題なくメールの送受信はできるし、ネットへの接続も可能だ。ドコモ、auともに「成長に合わせて長く使える」と胸を張るが「不完全だ」と不満も上がる。
「売れないことを恐れたのだろうが、将来もネット接続できない機種にしてほしかった」と話すのは、政府の教育再生懇談会「携帯電話問題ワーキンググループ」リーダーを務めた元日経新聞記者で政治解説者の篠原文也さん。懇談会は昨年、携帯電話は小中学生に不要と提言し、通話限定の機種の開発を業者に迫った経緯がある。
親はどう見ているのか。東京都内の販売店で新機種を眺めていた母親(37)は「ベルギーで3年暮らして帰国してきたばかり。携帯絡みのいろんな問題が起きているのでびっくりした。小2の娘に持たせたいけど、メール機能は不要です」。
一方、小4女児の母親(34)は「クラスの女児の携帯普及率は5割弱だが、持たない子も母親の携帯を借り、ほぼ全員が夜になるとメールで連絡を取り合っている。全員が通話だけの機種にすれば、効果があるかもしれませんが……」。
「子どもにねだられると親はネット解禁してしまう」(携帯電話事業者)--。一部の小学生がメールにどっぷりつかり、親も許容している実態を、事業者側は把握している。一方で関係者からは「機能を純粋に通話だけに限定したら売れない」といった本音も漏れる。それはまた携帯の使用率が小学生31・3%、中学生57・6%、高校生96%(内閣府07年調査)という急激な普及に、事業者自身の戸惑いがにじみ出ているようだ。
ITジャーナリストの村元正剛さんは、「本来は、どの携帯もネット接続不可にして、ネットは、親の管理するパソコンを使うのが理想」と指摘する。
毎日新聞 2009年3月3日 14時01分(最終更新 3月3日 14時41分)