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【社説】

米軍イラク撤退 自立と安定を最優先に

2009年3月3日

 イラクの駐留米軍が二〇一一年末までに全面撤退することが決まった。米国は今後、アフガニスタンに重心を移すが、「力の空白」による宗派間抗争の再燃も懸念され、柔軟な対応が求められる。

 オバマ大統領は週末の撤収演説で、今年一月に発効したイラクとの地位協定を踏まえ、まず来年八月までに戦闘部隊十万人を撤退。残る三万五千−五万人はイラク治安部隊の訓練、対テロ支援や米国の復興支援の護衛に当たり、一一年末までに全面撤退するとした。

 大統領の当初公約は「就任から十六カ月以内の撤退」だったが、早期撤退による治安悪化を懸念する国防総省の意向を受け入れ三カ月遅くした。さらに、イラクを含む中東の安定化を促進する「新たな地域的枠組み」の構築を提唱したことも注目に値する。

 同じシーア派のイラク政権に大きな影響力を持ち、核開発疑惑なども抱えるイランやシリアなど周辺国との対話重視をあらためて明言した。両国を「テロ支援国家」として敵視してきたブッシュ前政権路線と決別、ケリー米上院外交委員長をシリアのアサド大統領と会談させるなど、その素早い行動力は高く評価できよう。

 米国は今後、アフガニスタンの駐留部隊を三万七千人から六万人に増強させる方針で、対テロ戦略を大きく転換させる。また、イラク南部の駐留英軍も今年七月末までに撤退完了方針と伝えられる。

 開戦から六年。大義なき戦争が払った犠牲は大きい。米兵の死者は四千二百人を超し、イラク民間人の犠牲者は十五万数千人にも及ぶ。成果と呼ぶべきは、少数スンニ派の独裁から、選挙による民主的手続きを経て、多数派シーア派に政権が移ったことくらいか。

 ただ、今なおテロや戦闘は絶えない。今年一月の民間人死者は百三十八人と、開戦以来最少ながら宗派対立の根の深さを物語る。

 来年一月までに国民議会選挙が行われる。クルド人自治区との線引き、キルクーク油田を含めた石油の公平分配など未解決の問題が多く、国内各派の対立、抗争再燃の火種は残されたままだ。

 ゲーツ米国防長官も「治安状況次第では、大統領が部隊撤収の期限を微調整することもある」と、一二年以降も小規模部隊が駐留する可能性に含みを残している。

 戦後復興の鍵を握るのはイラクに委ねられる自立と治安である。イラク戦争を支持した日本も、その復興を支援する責務があろう。

 

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