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社説:刑法犯の減少 警察は護民官の役割重視して

 警察庁によると、昨年の全国の刑法犯の認知件数は一昨年より4・7%少ない約182万件だった。6年連続して減少した。来日外国人犯罪も前年比約13%減の約3万1000件で、3年連続の減少となった。

 検挙率は依然低迷して約32%にとどまったが、刑法犯は02年に285万件を超え、検挙率も01年に20%を割り込んでいたことと比べれば、悪化した治安は沈静化に向かい出したようだ。パトロールの強化や街頭犯罪の集中取り締まりなど、警察当局の施策が一定の成果を上げたものと評価できる。

 しかし、一方で殺人事件の続発が目立ち、児童虐待や児童ポルノ事件は過去最多を記録した。インターネットを使った名誉棄損や中傷被害などの相談件数も、昨年は初めて1万件を突破した。時代の変化につれて犯罪傾向や警備事案などが変質していることを踏まえれば、警察は警備部門などの要員配置や捜査態勢の見直しを迫られていると言えよう。

 従来、警察部内では「検挙に勝る防犯なし」といわれ、ややもすれば事件、事故の発生後の検挙活動に重点が置かれてきた。警察官の勤務評価でも、検挙件数や交通違反などの取り締まり実績が重視されてきた。結果として被害の回復や犯罪抑止などが二の次にされてきた面は否めない。

 今後も容疑者の検挙が重要であることに変わりはない。だが、刑法犯が減って多少とも警察力に余力が生じた今こそ、住民の安全・安心のための基盤作りを進め、事後処理から犯罪の抑止にシフトすることが求められているのではないか。

 警察は有能な捜査機関であるだけでなく、現代の「護民官」としての機能をより発揮すべきだ。大泥棒を逮捕することも重要だが、ひったくりや万引きの予防にも力を入れてほしい。全国の警察は最近、盗難に遭った自転車、オートバイなどの持ち主への返還に力を入れており、窃盗の認知件数の減少にもつながったと指摘されているが、被害者のための施策はさらに充実させねばならない。

 警察官や警察署の評価をめぐってはノルマや件数主義を超えて、目に見えない成果を検証する必要がある。パトロールや職務質問の熱心さ、交番勤務員による管内事情の把握ぶりなども的確に判断されねばならない。住民に密着した警察活動が、活力を失いつつある地域の再生に貢献することは間違いない。全国で234万人を数えるまでに育った防犯ボランティアらとも連携し、犯罪を起こさぬ町づくりを推進すべきだ。

 経済状況の悪化で失業者が増えており、せっかく減った刑法犯が増加に転じる可能性は小さくない。振り込め詐欺も後を絶たない。治安情勢は楽観を許さないが、警察にとっては反転攻勢の好機と考えたい。

毎日新聞 2009年3月3日 東京朝刊

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