食品添加物(10)

 

<発色剤>

 食塩による肉の塩蔵は、保存加工法として特にヨーロッパなどで古くから行われてきました。
この加工法の歴史の中で岩塩を使用すると保存性が向上するばかりでなく、肉の色調や風味が向上することが経験的に知られ、岩塩が広く利用されてきました。

 科学の進歩により、岩塩によるこの効果は、岩塩に含まれる硝酸塩が肉汁中の微生物により亜硝酸塩になることが解明され、亜硝酸塩が利用されるようになりました。

 この伝承的な技術を利用してハム、ソーセージなどの色調、風味の改善、保存性の向上やタラコ、すじこ、いくらの色調の改善に利用されるのが発色剤です。発色剤である亜硝酸塩は、食中毒の原因となる"ボツリヌス菌"の発育阻止効果もあり、欧米では、ハム、ソーセージなどの食肉加工品による食中毒防止のための保存剤として重要視されています。

食品の色は香りとともにわれわれの食欲をそそる重要な因子です。それと同時に、われわれが食品の良否を判別する役割を果たしている。食品は鮮度が低下すると色が悪くなり、また変敗すると色が変わることをわれわれは経験的に知っています。
したがって、栄養的に大きな差がなくても色の悪い食品を避けることはやむをえないことでもあります。

1. ハム、ソーセージなどの色調、風味を改善し、保存性を高めます。
  食肉加工品は、河口、保存中に褐変しやすく、風味も原料の肉臭が残り嫌われますが、発色剤により鮮やかな肉の色調にして、風味の醸成効果が得られ、保存性も高まります。
   
2. すじこ、たらこ、いくらの色調を鮮やかにし、魅力を高めます。
  水産加工品である、すじこ、たらこ、いくらは、発色剤の効果により褐色のくすんだ色になるのを防ぎ、おいしそうな淡い紅色となり、魅力が高まります。


※発色剤の範囲
 法的な意味では亜硝酸ナトリウム硝酸カリウム硝酸ナトリウムの3つが発色剤ですが、一般的には野菜、果実などに使用する硫酸第一鉄(乾燥)および(結晶)も含みます。

 

亜硝酸ナトリウムについて

発色剤「亜硝酸ナトリウム」と聞けば、その発ガン性を気にする人が多いと思いますが、マスコミに煽られて正しい知識を得ていないのが原因です。せっかくの機会ですので長くなりますが説明いたします。

硝酸塩は肉中の微生物により亜硝酸に還元され、亜硝酸から還元状態で生成する酸化窒素が肉のヘム色素と結びつき、肉の赤色を保持することが判明してから、亜硝酸ナトリウムが広く使用されてきました。

しかし、1967年ノルウェーにおいて亜硝酸ナトリウムで処理したニシンにより家畜が多数中毒死した事件が発生しました。
死因となったジメチルニトロソアミンはニシン中の二級アミンと保存料として使用した亜硝酸ナトリウムが、ニシンの乾燥工程中に反応して生成したものと判明しました。

この事実から、食肉に使う亜硝酸ナトリウムに対する批判が急激に高まりました。

その後、亜硝酸ナトリウムはアミノピリン、オキシテトラサイクリンなどの医薬品と酸性域反応してニトロソアミンを生成すること、また、アスコルビン酸(ビタミンC)はニトロソアミンの生成を阻害することなどの研究が進みました。

亜硝酸ナトリウムは発色作用以外に、ボツリヌス菌の発育抑制作用および塩漬け時の風味醸成作用があるので使用中止に踏み切れない実情があります。

そこで、現在ではアスコルビン酸の使用量の増加などによりニトロソアミンの生成を極力抑え、またベーコンなど喫食事に加熱するものにあっては使用量を減少させる方法をとっています。

尚、亜硝酸ナトリウム自体については毒性や発ガン性は認められていません。亜硝酸に関する問題はニトロソアミン生成因子としての問題に限定されると考えられます。

ニトロソアミンの生成条件

1) 亜硝酸とアミンが存在すると酸性側でニトロソアミンを生成する。
   
2) ニトロソアミンの生成は亜硝酸濃度の二乗に比例する。亜硝酸濃度が高ければその生成も大きい。
   
3) 生成反応の至適(最適)pHは、ニトロソジメチルアミンでpH3.4、ニトロソジフェニルアミンではpH1.0と酸性側である。
   
4) アスコルビン酸、フェノール化合物(ピロカテコール、ピロガロール、没食子酸など)は生成反応を阻害し、チオシアン酸(人の唾液中に含まれる)、コンドロイチン硫酸ナトリウム中の未同定物質は生成反応を促進する。

これら生成条件から亜硝酸ナトリウム硝酸塩と二級アミンが存在するヒトの胃内(pH1〜3)でニトロソアミンが生成し得ることになる。亜硝酸ナトリウム硝酸塩は生物の常在成分として5〜10ppm程度存在するので、たとえ亜硝酸を添加しなくても食品中で、あるいは生体中でニトロソアミンは生成する可能性が大きい

硝酸塩から亜硝酸塩の生成

 硝酸塩は微生物の作用により容易に亜硝酸に変換する。
常在成分として生物に存在する亜硝酸の含量は少ないが硝酸塩は植物成分中に多量に存在する。
したがってこれらを摂取した場合、亜硝酸塩を摂取しなくてもヒトの体内では多量の亜硝酸塩が生成する。

 現在日本人の硝酸塩摂取量は一人一日平均200〜400mgといわれ、この量は世界の平均摂取量50〜140mgの2倍以上の高量である。これは日本人は特に亜硝酸ナトリウム含量の高い野菜類を好んで摂取することによるものと考えられる。

 吸収される硝酸塩量(摂取の約25%)の約20%が唾液として分泌され、口中で亜硝酸円に還元される。
すなわち摂取硝酸塩の約5%が亜硝酸塩として胃に送られ、調査の結果ではその量は一人一日平均16.5mgに相当するという。

 これに対し、添加物から摂取される量は一人一日1mg以下(現在の食肉製品の亜硝酸塩の含量は10〜20ppm)とされる。添加物として摂取される量は、天然に存在する食品由来で体内で生成吸収される量に比べて、問題になり得ないほど低いのである。
 

 

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