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【第53回】 2008年10月29日

株価下落で露呈した進歩のない日本の銀行経営

 また、公的資金枠は現在、銀行の適用申請を受けた後に、検討し注入するか否かを決めるという形になっているが、この際に経営責任を問うと銀行側が公的資金を申請しなくなるから、経営責任については棚上げしようというような銀行側に際限なく都合のいい話となっているようだ。しかし、金融庁は銀行を検査・監督しているわけだし、政府の資本注入は、申請に基づくのではなく、各行の経営状態に対する監督当局の判断に基づく強制注入でいいのではないか。

 そう考えていた矢先、朝日新聞社のニュースサイトで、新銀行東京に関する興味深いニュースに出くわした(10月26日付け)。NHKの報道番組で、民主党の管直人代表代行が、公的資金の注入先として、「新銀行東京が対象になるとすれば、大問題だ」と述べたのに対して、自民党の石原伸晃幹事長代理が「法律の中には銀行に区別はない」と答えたというのだ。

 新銀行東京といえば、潰れても影響ない銀行の代表格であり、放漫経営の最たるものだ。都民の税金を使って増資したがすでに一部が欠損しているようだとも聞く。どさくさ紛れに、こんなものまで、一般国民からの税金まで使って延命させてしまうならば、管氏のいうとおり、議論せざるをえないし、何とも酷い話だ。

 一方、メガバンクは、とりあえず無事なのかと思ったら、増資、増資と言い始めている。週明け10月27日の株式市場では、三菱UFJは、最大1兆円の増資を検討していることから、希薄化懸念が高まり、物凄い勢いで株価を下げた。モルガン・スタンレーへの90億ドル(約8550億円 1ドル95円で計算)の出資は病人同士の輸血のようなものだったのか。あれから、株価が下がっただけであたふたする目下の状況を見ると、日本の銀行は経営的には何も改善されていなかったことが分かる。

 銀行経営から株価の影響を切り離されなければならないという不良債権処理の教訓が、まったく生かされていない。株価が下がると、結局、昔と変わらぬ元のままの銀行がまた汚い顔を出して現れた。そんなに立派になったともそもそも思ってはいなかったが、さすがにこれだけ進歩がないと、がっかりしてしまう。

関連キーワード:アメリカ サブプライム問題 金融機関 株式市場 金融危機

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執筆者プロフィル

写真:山崎 元

山崎 元
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、明治生命、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、一橋大学大学院非常勤講師、マイベンチマーク代表取締役。

この連載について

旬のニュースをマクロからミクロまで、マルチな視点で山崎元氏が解説。経済・金融は言うに及ばず、世相・社会問題・事件まで、話題のネタを取り上げます。

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