【第53回】 2008年10月29日
株価下落で露呈した進歩のない日本の銀行経営
しかし、それなら日本株のマーケットは今のところ正常に機能しているわけで、株価の時価会計適用を制限しなければならないような理由は見当たらない。保有株の時価会計まで停止しようとしているのは、間違いだ。
筆者から見るに、根本的な問題は、時価会計ではなく、銀行が株式を持っていることにある。銀行業務と株式投資の両方を行うことについては、もともとコンフリクト(利益相反)の問題がある。たとえば、株主の権限を使って、自己資本から、融資の回収を図るかもしれないわけで、銀行が株式を持っている状態は原則として望ましくない。
もう一点、バブル処理の経験を踏まえると、銀行の経営が株価に振り回されることは非常に良くない。株価が下がると、ついでに金融システムの信頼も揺らぐというのではいかにも拙い。しかし、銀行は、企業の株式を持つことによる支配力を手放そうとしなかった。それゆえに、現在痛い目にあっているのだが、制度の設計として、銀行業務と株式投資を切り離すことを真剣に考える必要があるのではないだろうか。
金融商品の時価評価は
預金者のためにも必要
10月27日付の日本経済新聞の社説は、米欧各国が銀行間取引の政府保証、公的資金の資本注入などと並び、時価会計の凍結でも足並みをそろえつつあるとして、株安が続く日本も(時価会計凍結の)例外ではなくなったと主張している。要するに、時価会計凍結が世界標準であるから、日本での一部停止も止む無しという論調だ。時価評価は重要な情報ではあるが、万能ではないと、日経らしく曖昧に主張している。
しかし、銀行も上場企業であるわけで、その上場企業の価値を評価しようとする時には、資産価格などの実質的な経済価値の変動を投資家が見たいのは当然だ。また、株式投資家だけでなく、大げさに言えば、預金者も、取引の関係者も、相手の銀行、金融機関がどれくらい財務的な強さを持っているか持っていないかを当然推し量らなければならない。そもそも、銀行はお金を貸すときに、相手の資産の時価評価には目もくれずに貸すということなのか。自分だけを特別扱いするおかしさに気づくべきだ。
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山崎 元
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、明治生命、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、一橋大学大学院非常勤講師、マイベンチマーク代表取締役。
旬のニュースをマクロからミクロまで、マルチな視点で山崎元氏が解説。経済・金融は言うに及ばず、世相・社会問題・事件まで、話題のネタを取り上げます。