岸博幸のクリエイティブ国富論

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【第28回】 2009年02月27日

ネットの無料モデルに“マスメディア”の未来はない

 他にも同様な例が多く存在するのを見ると、マスメディアはネット上では視聴者にカネを払わせるビジネスモデルを目指すべきなのかもしれません。広告収入依存の無料モデルは放送が元祖ですが、ネットは広告単価や広告主の特性など様々な点でマスメディアと異なり、ネット上でドミナントなプラットフォームを確立したネット企業の独壇場とならざるを得ません。

 もちろん、Huluのように広告モデルで成功しつつあるマスメディアのネット展開の事例もあるのですが、少なくともネットを活用するマスメディアが盲目的に無料モデルに迎合する必要性はないのではないでしょうか。

無料モデルは
ジャーナリズムもダメにする

 そして、広告依存の無料モデルは、ジャーナリズムも衰退させる危険性があることに留意すべきだと思います。

 マスメディアのジャーナリズムを最も支えているのは新聞ですが、そこでは身銭を切って購読している読者の存在というものが、ジャーナリズムというモラルを維持するために重要な役割を果たしていると思います。紙が廃れてネットが中心となり、そこで無料モデルが展開されたら、一体どうなるでしょうか。ジャーナリズムが忠誠を尽くす対象が読者から広告主に変わってしまうのです。広告主に媚び出した瞬間、ジャーナリズムは妥協し、テレビのワイドショーのように話題性や事件性のみが優先されるようになるでしょう。

 つまり、無料モデルは経済的にもペイしないのみならず、ジャーナリズムも堕落させるのです。

 従って私は、マスメディアがネット上で目指すべきは視聴者にカネを払わせる課金モデルではないか、と思っています。少なくとも今後2年は深刻な景気後退が続く可能性があり、かつその後は資本主義のパラダイムが変化する可能性もあることを考えると、尚更それが重要ではないかと思っています。

 そう考えると、日本の例で言えば、YouTubeとニコニコ動画のビジネスモデルの違いは非常に勉強になると思います。YouTubeは米国譲りの無料モデルを実践していますが、ニコニコ動画は広告も入れつつも会員システムを取り入れ、会員数は着実に増加しています。ニコニコ動画の経営陣の先見性は高く評価されるべきではないでしょうか。

 もちろんマスメディアが無料モデルを脱却して課金モデルに移行するためには課題がたくさんあります。それをどう打ち破ってネット上のビジネスモデルを確立するが重要になりますが、実はその参考として音楽産業の経験が非常に役に立つのです。次回は、この点について説明したいと思います。

関連キーワード:アメリカ インターネット メディア

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執筆者プロフィル

写真:岸 博幸

岸 博幸
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。

この連載について

メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。

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