【第28回】 2009年02月27日
ネットの無料モデルに“マスメディア”の未来はない
ネット上では時間をかけて探せばどんなコンテンツでも無料で入手できます。かつ、グーグルの出現以降、ネット上では無料ビジネスが主流となりました。従って、ネット上で無料モデルが幅を利かすのはやむを得ませんが、一方で世界的にネット広告の単価は下落を続けています。ネット上では広告スペースが無制限に供給されるので当然です。高い広告単価を維持できているのは、膨大なアクセス数を獲得した一部のポータルサイト位ではないでしょうか。
例えば、米国のネット上で最も読まれている新聞ニューヨーク・タイムズは、ネット上では無料モデルを採用していますが、その実態を見ると、紙の発行部数が100万部に対してウェブサイトのユニークユーザ数は月2000万もあるのに、ウェブの広告収入では全社員の20%しか養えないそうです。
ついでに言えば、ネットへの広告支出は世界的に右肩上がりで増加してきましたが、経済危機でその流れが変わり、米国では2008年の第4四半期に減少に転じました。単価が下がって総額も減少しては、広告モデルで儲かるはずはありません。
マスメディアがネット上で
目指すべきビジネスモデル
一方で、ネット上で安定的に成功しているマスメディアのビジネスモデルを見ると、その多くが広告よりも個人課金を重視しています。
例えばウォールストリート・ジャーナルは、広告も入れていますが、そのアーカイブには毎月定額を払う会員しかアクセスできません。数年前はこのビジネスモデルに対して賛否両論がありましたが、経済危機に突入した2008年に会員数は7%も増えています。数年前からこのモデルを維持している先見の明には改めて驚かされます。
もっとすごいのは料理雑誌のCook’s Illustratedです。そのウェブサイト上には一切広告を入れていません。年額35ドルを払えば料理レシピのアーカイブにアクセスできるようにしているのですが、その会員数は2008年に30%も増加しています。
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【異色対談 小飼弾vs勝間和代「一言啓上」】
知的生産術の女王・勝間和代、カリスマαブロガー・小飼弾が、ネット広告から、グーグルの本質、天才論に至るまで持論を徹底的に語り合った。豪華対談を6回にわたって連載する。
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岸 博幸
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。
メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。