社 説

義援金の使い道/善意を無にする「ばらまき」

 岩手・宮城内陸地震で寄せられた義援金の一部を、大崎市が市内に357ある行政区に一律支給することを決めた。義援金の趣旨に沿った使い道なのか、疑問が残る。

 大崎市に寄せられた義援金は宮城県からの配分金を含めて約1億1000万円。このうち約3000万円を、地域防災対策支援金の名目で8万4000円ずつ配る。使い方は各行政区に任されるというから、まさに「ばらまき」と言わざるを得ない。

 ほかに、観光地の風評被害対策として首都圏への旅行商品売り込みやグッズ製作などに1000万円を充てる。これも適切といえるかどうか、疑問符が付く。

 義援金はそもそも「災害で生命、財産に被害を受けた人を慰め、励ますための見舞金」(日本赤十字社)であり、被災者に直接支給されるのが本来の使われ方だ。亡くなった人の遺族や住宅被害を受けた個人に支給される約6000万円や、融資を受けた中小企業への利子補給に使われる1300万円が、義援金の趣旨に合致している。

 被災者への直接支給は、被災した他地域とのバランスも考慮しなければならないだろうから、単純に増額はできないかもしれない。そうだとしても「義援金が余ったので、市民みんなで山分けしましょう」では、無策すぎないか。

 大崎市全域が均等に被害に遭ったわけではない。ほとんど無傷の地区だってある。防災支援金の使い道を尋ねられた行政区長の中には「懐中電灯などの購入」「防災訓練の炊き出し費用」と答えた人もいるという。「善意のお金」を変な形で押しつけられて、困っているというのが本音ではなかろうか。

 岩手県奥州市でも、義援金がスポーツ選手の講演会に使われることから、市災害義援金配分委員の1人が抗議の意味を込めて2月中旬、辞任した。予算は100万円と多くはないが、委員は「義援金は被災者を直接支援することに使うべきだ。講演会は一般財源でもできる」と主張しているという。もっともだと思う。

 義援金の使い道として、被災者支援や復興に向けた取り組みに見落としはないか。それでも余るのであれば、将来の災害への「備え」に使うこともやむを得ないだろう。

 これまで余剰分を基に、将来の災害の被災者支援に充てるための基金を創設した自治体は多い。原資が足りないというなら、複数の自治体で共同出資することも可能ではないか。今回の地震で被害を大きくした土砂災害の調査研究に役立てるのも選択肢の一つかもしれない。

 義援金を寄せてくれた一人一人の気持ちを思えば、1円たりとも無駄にできない。そこが原点のはずだ。
2009年03月02日月曜日