「妊娠糖尿病になる可能性があります」。今月21日に出産した都内在住の出戸祥子(でとしょうこ)さん(40)は昨年12月、医師に告げられ驚いた。自身や親類も糖尿病と無縁だったからだ。年明けに出た検査結果でも血糖値が高かった。
妊娠糖尿病は、妊娠によるホルモンの変化などで血糖値が上昇する病気だ。4キログラム以上の巨大児になり、難産となる恐れがある。
出戸さんは「昼は外食、深夜にすしやうどんを食べていた」と振り返る。栄養士の助言で1日1800キロカロリー以下、バランス重視の食生活を心がけた。指導から2週間、血糖値は正常に戻った。
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食事で悩む妊婦は多い。アレルギーもその一つだ。アレルギーは、抗体の一種「IgE」が原因物質(アレルゲン)と結合し起こる。アレルゲンは卵や牛乳、そばなどに含まれる。体内に入ると、リンパ球の一つのB細胞でIgEが作られる。
子供がアレルギーにならないよう妊娠時からアレルゲンを取らない食事は必要なのか。
厚生労働省研究班の「食物アレルギーの診療の手引き2008」では、卵や牛乳を妊娠中に除去しても効果はなかったとの研究を紹介した。国立病院機構相模原病院の海老沢元宏部長は「両親に食物アレルギーがない限り極端な食事制限は勧めない。気にしすぎて偏食し、必要な栄養素が取れなくなる方が問題だ」と助言。出産後については「乳児に強いかゆみが2カ月以上続く慢性湿疹(しっしん)が出たらアトピー性皮膚炎かどうか鑑別する。食物アレルギーなどの有無を確認し、対策を早期に取ることが大切」と話す。
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妊娠中、何かとストレスがかかる。お酒を飲みたくなるのも自然だろう。ただ、お酒を常用すると、子供に知的障害や発育障害が生じる危険性がある。厚労省検討会の報告書「妊産婦のための食生活指針」によると、1日に純アルコール(エタノール換算)60ミリリットル以上飲むと、高い頻度でなるという。この量はビール中瓶約2・5本、清酒約2合、ワインでグラス約4杯だ。国立保健医療科学院の滝本秀美室長は「安全なアルコールの量の研究はない。胎児は代謝機能が十分育っていないので、妊娠中の飲酒は控えた方がいい」と語る。=つづく
◆記者の体験
昨年、妊娠3カ月の妻が、母子手帳と共に、妊娠や出産などに関する副読本を市からもらってきた。妊婦の食事のアドバイスが詳細に書かれていた。
子供のためと妻に勧めると、「こんなに食べられない」と不機嫌になった。つわりのためだった。それに加え、仕事で疲れて帰ってくるので、本に書かれた通りにおかずなどをそろえるのは難しい。専門家に相談すると、「一度に無理して取るのではなく、小分けにして一日に必要な栄養分を取ってください」と提案してくれた。
アレルギーも心配の種だった。ただ牛乳や卵は普段から口にしていたため、食べ物の種類が制限されてしまう。調べると、食事制限がアレルギーを予防する科学的データはほとんどなかった。「食事に注文をつけたのはかえってストレスを与えた」と反省した。妻が食べ過ぎたり、栄養のバランスが崩れていないかを知るには、一緒に食べることだ。オフの日には妻と食事を楽しんでいる。【河内敏康】
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■バランスの取れた食事例
【主食】非妊娠時や妊娠初期・中期は1日5~7単位。妊娠末期と授乳期は1単位増。
(料理例)1単位=ごはん小盛り1杯、食パン1枚、ロールパン2個▽1.5単位=ごはん中盛り▽2単位=うどん1杯、そば1杯
【副菜】非妊娠時と妊娠初期は1日5~6単位。妊娠中期・末期と授乳期は1単位増。
(料理例)1単位=野菜サラダ、具だくさんみそ汁、ほうれん草のお浸し、ひじきの煮物▽2単位=野菜の煮物、野菜炒め
【主菜】非妊娠時と妊娠初期は1日3~5単位。妊娠中期・妊娠末期と授乳期は1単位増。
(料理例)1単位=冷ややっこ、納豆、目玉焼き▽2単位=焼き魚、魚のてんぷら、マグロとイカの刺し身▽3単位=ハンバーグステーキ、豚肉のショウガ焼き、鶏肉のから揚げ
【牛乳・乳製品】非妊娠時や妊娠初期・中期は1日2単位。妊娠末期と授乳期は1単位増。
(料理例)1単位=牛乳コップ半分、スライスチーズ1枚、ヨーグルト1パック▽2単位=牛乳1本分
【果物】非妊娠時と妊娠初期は1日2単位。妊娠中期・末期と授乳期は1単位増。
(料理例)1単位=みかん1個、りんご半分、柿1個、ブドウ半房、なし半分
※厚労省などの資料から作成
毎日新聞 2009年2月27日 東京朝刊