小泉純一郎首相の再訪朝は前回よりもさらに国益を損なうものであり、日本の政治史、外交史に大きな汚点を残したと思う。
小泉首相は記者会見で再訪朝の目的について、「日朝平壌宣言を再確認した」と明言している。しかし、その平壌宣言自体が問題だ。共同宣言には、日本側の(植民地支配についての)おわびと義務的な経済援助などが盛り込まれているが、北朝鮮の核査察受け入れや日本人拉致については、その文言すら入っていない。屈辱的な内容であり、これほど一方的な共同宣言は世界的にも例がないと思う。
しかも北朝鮮はその後、核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言し、濃縮ウラン計画まで推進している。共同宣言の「北東アジアの平和と安定を維持、強化するため、互いに協力する」といったような抽象的な約束は、北朝鮮に完全に踏みにじられ空文化している。そんな空証文をわざわざ再確認しに行ったというのだから、首相の政治感覚はまったく理解できない。
事実関係で見ると、25万トンの食糧支援と1000万ドルの医薬品の提供は筋違いだ。100億円相当もの身代金を誘拐犯の親玉に持って行って、ご機嫌うかがいしながら、人質をようやく連れ帰ったに過ぎないからだ。
拉致被害者の家族5人の帰国は、本人にとっても家族にとっても、大変喜ばしいことだ。
問題はあくまで小泉首相にある。「テロに屈しない」などとカッコいいセリフで自衛隊をイラクに派遣しておきながら、日本の国家主権を侵し、領土を侵し、国民の人権を侵した北朝鮮の国家テロには屈している。北朝鮮に対しては、まず国家テロの責任を取らせなければならないはずなのに黙っている。
外交で大事なのは、きちんと自己主張することだ。そうしなければ、それだけで相手にバカにされる。今回の首脳会談における金正日(キムジョンイル)総書記の言葉を見れば、それは自明のことだ。「わざわざおいでいただいて申し訳ない」と言うのが礼儀であるべきところ「いろんなことがあるのに、よう来たねえ」などと小バカにしている。
そう考えてくると、この再訪朝は、小泉首相が一時の人気取りに利用しようとしたとしか見ることができない。きつい言葉で言えば、政治家として恥を知らない行為であり、売国的行為だ。
僕も(自民党幹事長在任中の)90年10月、北朝鮮に出向いて交渉した経験がある。あの時は(北朝鮮に抑留されていた漁船)「第18富士山丸」の船長さん(紅粉(べにこ)勇氏)たちの救出が大きなテーマだった。深夜にたたき起こされ、北朝鮮側が「船長らは犯罪を犯した、と文書に明記しなければ帰さない」と言ってきたと知らされた。
その時、僕は「バカなことを言うな、絶対に書くな」と主張して押し通した。その声が隠しマイクで(北朝鮮側に)聞こえたらしく、交渉の席に戻ったら北朝鮮側が態度を変えて折れてきた。政治家は主張すべきことは主張しなければならない。小泉首相には、日本の代表としての自覚がまったくなかったと言わざるを得ない。(談) |
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