毎年8000人近くが国家試験をパスして医師になる。なのに医師不足は深刻化する一方だという。医師の偏在である。
まずは「診療科」にある。「訴訟を起こされる恐れがある」「夜も昼もなく忙しい」など、より厳しい労働環境にあるのは敬遠されがちだ。その結果、産科や小児科は医師不足の代表格となった。
地域間格差もある。大都市圏と地方だけでない。九州各県でも県庁所在地などと過疎地・へき地では大きな差がある。医療の「県内格差」は共通している。
そして開業医に比べた勤務医の労働環境だ。多忙で過重な負担に耐えかねた勤務医が地方の公立病院などを辞めていくことで医療崩壊が進んだといわれる。
それを引き起こした「主犯」と非難の的となったのが、2004年度から始まった臨床研修医制度であった。
医学部教育を終えて国家試験に合格すると研修医として経験を積む。以前から制度はあったが、法改正で2年間の研修が義務付けられたのが04年度だった。
代わりに出身大学以外の研修先を選べることになった。大学では専門医志向が強く、結果として専門外の診療には無関心だったり、避けたりしがちになる。
研修先を地域の病院に広げることで幅広い経験や知識を積ませようとした。
給料が安いためにアルバイトに行き、そこで医療事故を起こすとの指摘があった。研修医の待遇改善も目的だった。
結果は多くの地方大学が懸念していた通り、研修医の大量流出が起きてしまった。そして、大学病院のスタッフが不足し、地域の公立病院などに派遣していた医師を引き揚げざるをえなくなった。
大学を頂点とした医師派遣の仕組みが壊れ、地域の医療体制が崩れた。そんな地方の強い不満を受けるかたちで昨秋、厚生労働省と文部科学省の合同で臨床研修のあり方を見直す検討会ができた。
検討会は半年間かけて、都道府県や病院ごとの募集定員の制限と必修診療科目の削減などを柱とする提言をまとめた。
研修医総数に対して1.5倍くらいの募集がある。中には研修医を引きつけるために高額の給与や留学などの条件を出していたところもあったという。
待遇の良さなどを競い合えば、予算なども限られた地方大学が不利だとして、検討会では、大学病院を中心とした従前の制度に戻すべきだとの意見もあった。
だが、現行制度になって質が上がったなどと評価する声も少なくない。現在の制度の長所、短所を見極めながら、より良き制度にしていくしかあるまい。
当然だが、臨床研修制度を変えることで、いまの医療が抱える問題が消え去るわけではない。そんな特効薬はない。
検討会でも、医学部教育や国家試験のあり方から医師の生涯教育をどう進めるのかなど幅広い問題提起があった。医療制度全体の議論を重ね、時代に合う制度に変える反復作業を続けるしかない。
=2009/03/02付 西日本新聞朝刊=