オバマ米大統領がイラクからの米軍撤収計画を発表した。戦闘部隊は来年8月末までに撤退し、残る兵力も2011年末までに引き揚げる計画だ。ブッシュ前政権による開戦から、もうじき6年。国際社会も米国内も世論が大きく割れ、犠牲者の数も重ねたイラク戦争からの「出口」を、新政権がとりあえず示した。
大統領選挙中にオバマ氏は、就任後16カ月以内に戦闘部隊を撤収する方針を掲げていた。来年8月末までに戦闘部隊撤収という日程は、公約より3カ月遅れる形になる。
撤収計画策定でオバマ大統領は、前政権から留任したゲーツ国防長官や現地司令官などの「拙速な撤退は状況を不安定にする」という判断も考慮に入れたようだ。大統領は状況が改善したと指摘しつつも、「イラクはなお安全ではなく、困難な日々が待ち受けている」と語った。
戦闘部隊撤収後も、3万5000―5万人規模の米兵力がイラク治安部隊の訓練や支援のため11年末まで残る。この点を含め与党・民主党から不満も出ているが、大統領の座を争った共和党のマケイン上院議員は撤収計画を「合理的」と評価した。
オバマ大統領はイラクでの「勝利」という言葉を口にせず、他の優先課題と切り離してイラクだけを見ている余裕は米国にはないと言う。先週の施政方針演説には「対テロ戦争」という表現も登場しなかった。
すでに英国のブラウン政権も対テロ戦争という表現をやめ、テロリスト側か我々の側かというブッシュ流二元論から遠ざかろうとしていた。ミリバンド英外相は、対テロ戦争の名でさまざまな勢力を同一視して排除しようとしたことが逆にイスラム教徒の反発を強め、テロリストを増やす結果になったと指摘する。
軍事力で特定の政権を打倒できても、軍事力に頼るだけでは地域の安定化は果たせない――。イラク戦争は、その現実を端的に示した。
アフガニスタンも同様だ。同国の安定に力点を置くオバマ政権は米軍増派を決めたが、さらに隣接するパキスタンも含めた包括的戦略を検討するという。マレン米統合参謀本部議長は安定化には軍事以外の分野も重要と強調し、大統領も経済開発などの重要性が増すと語っている。
米新政権は中東外交で、長年対立してきたイランなどとの対話を含む多面的な関与政策を追求する方針も示した。米国の新政策がすぐに奏功する保証はないが、外交の環境はかなり変わった。日本はこうした変化も注視しつつ、地域安定化への新たな貢献策を打ち出すべきだ。