社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

社説:柏崎刈羽原発 起動には謙虚で慎重な判断を

 新潟県中越沖地震から1年半がたつ。東京電力の柏崎刈羽原発は想定を超える揺れに見舞われ、7基すべてが止まったままだ。

 このうち、もっとも被害が小さかった7号機を再び起動し、運転を再開する準備が進められている。東電は原発を止めたままできる試験を終え、実際に動かして行う試験を開始する予定だ。

 その試験計画を、経済産業省の原子力安全・保安院と、内閣府の原子力安全委員会が了承した。原発の安全性をダブルチェックする国の両組織が起動を認めたことになり、地元が了解すると試運転が始まる。

 保安院は検査官による点検や審議会の議論などを通じて、東電の評価を追認している。安全委は東電と保安院の報告を吟味している。いずれも、自信を持って判断しているはずだ。

 とはいえ、それで市民の不安が払しょくできるとは限らない。地元では専門家をメンバーに加えた県の技術委員会で議論が続いている。東電や国は最後まで謙虚な姿勢で対応し、疑問に答える必要がある。

 安全確認の対象は大きく分けて二つある。まず、中越沖地震によって7号機の健全性を損なう影響が出ていないか。もうひとつは、06年に改定された原発耐震指針に照らして、安全性が保たれているかどうかだ。

 東電は目で見た点検、作動試験などを行い、安全上重要な機器は地震の影響を受けていないと判断した。複数の設備を組み合わせて行う系統試験でも、問題なしと結論づけた。新指針への対応では、音波探査による海底活断層の調査などを行った。耐震補強工事も実施し、発生する可能性のある大きな地震にも耐えうると結論づけている。

 一方、こうした評価に疑問を呈する声もある。施設の健全性では、中越沖地震による被害が大きかった1号機などをあわせて検討しなければ、7号機の安全性にあいまいさが残るとの指摘がある。耐震性についても、断層を見逃しているとの主張がある。

 東電は起動試験を段階的に進める計画だ。安全を見極めながら慎重に進めるのは当然だ。一方で、原発に100%の安全はないし、地震の揺れも100%予測はできない。そう考えると、少数意見にも耳を傾け、できる限りの安全確保に努めることが欠かせない。

 地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素をほとんど出さない原発には世界的に追い風が吹いている。日本でも、柏崎刈羽原発の停止で、二酸化炭素の排出が増えたと指摘されている。

 確かに、二酸化炭素の排出抑制は大事だ。ただ、原発はひとたびトラブルが起きると、長期にわたって停止せざるを得ない。それが中越沖地震の教訓でもあったはずであり、原発の再起動には慎重な判断が欠かせない。

毎日新聞 2009年3月2日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報