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社説:日中外相会談 「尖閣」で政治摩擦を高めるな

 北京で行われた日中外相会談は、弾道ミサイル発射の動きを見せている北朝鮮に自制を求めていくことで一致した。だが、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題では原則論で対立し、東シナ海のガス田問題などの懸案では具体的進展がなかった。米オバマ政権の発足で米中関係が広がりをみせつつある中、日中の「戦略的互恵関係」も加速させたい。

 「尖閣」問題をめぐる最近の日中論争のきっかけは、昨年12月に中国船が尖閣諸島周辺の日本領海に侵入したことだ。その直後の日中首脳会談で麻生太郎首相が遺憾の意を伝えたが、温家宝首相は「古くからの中国の領土だ」と反論した。

 外相会談を前に麻生首相や中曽根弘文外相が「尖閣は日米安全保障条約の対象だ」と発言したことにも中国側は即座に反応し、外務省報道局長が不満表明の談話を発表している。外相会談では楊潔〓(ようけつち)外相が「尖閣」問題を提起し双方が原則的立場を主張し合ったが、この問題を日中関係全体に影響させないよう努力することは確認したという。

 賢明な対応である。不穏な動きを見せている北朝鮮や金融・経済危機への対処、地球温暖化対策への取り組みなどで協調が必要なこの時期に、日中があえて政治的摩擦を高めるのは百害あって一利なしである。

 ガス田問題で進展がなかったのは残念だ。東シナ海の日中中間線付近の四つのガス田のうち二つについて日本側の出資や共同開発を行い、他の二つについては継続協議というのが昨年6月の合意内容だ。

 ところが、共同開発を具体化するための公式の条約交渉はいまだに始まる気配がない。継続協議とされたガス田のうち一つについて中国側が単独開発を続けていることも判明した。早期の交渉入りを求めた中曽根外相に対し、楊外相は「敏感、複雑な問題もかかわっている」として事務レベル協議を継続する考えを示すにとどまった。

 経済の減速などを背景に、中国では対日強硬姿勢を求めるインターネット世論が強まっているという。中国側にはこうした動きに一定の配慮をせざるをえない事情もあるようだ。ただ、ガス田の共同開発は「戦略的互恵関係」の象徴とされる日中の共同作業である。中国側には合意を前へ進める努力を求めたい。

 成果もあった。相手国に逃亡した容疑者の引き渡しを可能にする「犯罪者引き渡し条約」や相手国で罪を犯した受刑者を本国で服役させる「受刑者移送条約」の締結ヘ向け交渉を開始すること、教員交流を拡大すること、外務・防衛担当幹部による日中安保対話を2年半ぶりに再開することなどである。

 こうした地道な努力を大切にしたい。発覚から1年以上過ぎた中国製ギョーザ中毒事件も中国側は早期に解明してほしい。

毎日新聞 2009年3月2日 東京朝刊

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