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アフリカのソマリア沖で横行する海賊から日本商船を守るため、海上自衛隊の護衛艦2隻が今月中旬、現場海域に向かう。これは、自衛隊法の海上警備行動を適用した派遣だ。
この応急措置とは別に、政府の「海賊対策新法」の概要が固まった。
海賊行為という犯罪に対し、海上保安庁と海上自衛隊が取り締まりにあたる。海上警備行動とは違い、警護の対象は日本の船舶に限らず、他国の商船を守ることも可能とする。
ただしこれは、海賊犯罪を取り締まる警察行動が目的だ。海上保安庁の手に余る事態には海上自衛隊が手助けするという仕組みが基本的な考えだ。
政府は今回、海上警備行動による自衛隊派遣に踏み切るが、本来は、こうした法律をきちんと整備したうえで出すのが筋だったろう。
最終段階にきた法案作りの焦点は海賊を取り締まる際の武器使用をどこまで認めるかという基準のあり方だ。
海外に派遣した自衛隊の武器使用は正当防衛と緊急避難に限って必要最小限が認められている。だがこれでは、海賊船が警告射撃や威嚇射撃を無視した時に対応しきれない恐れがある。
そこで、不審船などが停船に応じずに逃走した場合、海上保安庁の巡視船が船体に向けて射撃できる現行法の規定を援用して、公海上でも船体射撃を認める方向になっている。
海賊行為を確実に阻止するために必要な措置だとしても、あくまでも過剰な武器使用にならないように、明確な基準と歯止めは必要だろう。
派遣にあたって国会の承認は不要とされ、活動内容の基本計画を報告するだけにとどめるという。海外、それも洋上での活動だと、国民の目からは遠い。国会がきちんと活動をチェックできる文民統制の仕組みを確立しておかねばならない。
法案作りに関連して見過ごせない動きが自民党内などに出ている。
新法の規定を機に、自衛隊を海外に派遣する際の武器使用基準を広げたいという声が上がっていることだ。
国連の平和維持活動でも、イラクでの活動でも、憲法が禁じる武力行使にあたらないよう、武器使用には極めて抑制的な基準が設けられてきた。それが自衛隊の活動範囲を必要以上に狭めているという不満は、防衛省や自民党内などでよく聞かれる。
だがこの問題は、憲法のもとで日本の果たすべき役割、自衛隊の能力、国際社会の要請などを踏まえ、冷静に議論すべきことだ。海賊対策で認めたのだから、他の派遣でも認めたいというのはとんでもない筋違いである。
平和維持活動一般への自衛隊派遣の問題と議論を混同させてはならない。国会での審議では、その点を明確にしてもらいたい。
ちょうど20年前、女性が一生に産む子どもの数が過去最低になり、1.57ショックと呼ばれた。以来、少子化対策が叫ばれてきたにもかかわらず、「仕事か子どもか」の厳しい選択を迫られる状況は相変わらずだ。
子どもを預けたくても保育所が足りない。待機児童は約2万人もいる。産みたくても産めない、と子どもをあきらめる人もいるにちがいない。
出生率は回復せず、女性も働けず、将来の労働力不足を避けることができない。年金などの社会保障制度を支えられるかどうかもあやしくなる。
こういう不安を解消するカギは、質の高い保育を十分に提供して「仕事も子どもも」を実現することだ。
必要な人すべてが保育サービスを受けられるようにしようと、厚生労働相の諮問機関・社会保障審議会の特別部会が第1次報告をまとめた。
学校に上がる前の子どものうち、現在、約216万人が公立保育所と公的な補助のある認可保育所にいる。無認可保育所には約23万人。約167万人の幼稚園児より数ははるかに多い。
どうしたら、保育所を増やすことができるのか。
市町村が支給する利用券で保育所と利用者が直接契約する案もあった。いわば市場原理に基づいた自由競争だ。これでは保育の現場に格差が生まれかねない。競争で淘汰(とうた)が働き、近くに保育所が一カ所もない事態もありうる。この案は採用されなかった。
新たな制度案では、必要だと認められれば認定証明書で公的保育を保障する。いまは待機児童の多い都市部で要件を厳しく判断しがちだからだ。
保育所の認可は都道府県の権限だが、最低基準をクリアすれば新たに指定制などでも対応できるようにする。民間参入を促す仕組みもつくる。
この制度改革で果たして量が増えるかどうか不明だが、質が低下しては元も子もない。保育の質の向上には保育士の待遇改善が欠かせない。
いずれにしろ、保育所を増やすには財源が問題になる。潜在的な待機児童は約100万人とされ、運営費だけで約7千億円前後が必要だという。
改革は消費税引き上げを前提にしているが、いつになるかわからない。
もともと、欧州に比べて日本は家庭や子どもへの対策の費用が少ない。
欧州ではスウェーデンなど、幼稚園と保育園を一元化したうえで保育・幼児教育に力を入れている国は多い。人員配置も手厚い。将来を担う子どもたちを育てる理念がある。それに対して日本は10年以上遅れているという。
不況下で子どもを預けて働きたい人が増えている。政策の優先順位を上げて財源を手当てすべきだ。
「未来への投資」は引き延ばすことなく、素早く実行に移してほしい。