障害者による個性あふれるアート活動で関心を集める福山市の知的障害者施設・福山六方学園から国際的アーティストが誕生したといってもよかろう。
学園で暮らす橘高博枝さんが、米・ニューヨークの有名画廊と絵画の売買契約を結んだと二十四日付の本紙が伝えている。作品の購入者にはニューヨーク近代美術館のキュレーター(展覧会企画者)も含まれているという。芸術としての評価であろう。
彼女の作品は、福山市の展覧会で見たことがある。文字とも記号ともつかない奇妙な模様で画面が埋め尽くされた抽象画で、余白との絶妙なバランスが印象的だった。
七十五歳になるが、作品と対話するように独り言をつぶやき、時には居眠りし、ゆっくりと無心に筆を走らせるのが日課という。県内外の作品展に出品し、入賞歴もある。
学園では彼女のほかにも創作に打ち込む障害者が大勢いる。軽作業の一環として取り組んだ織物や陶芸で、作品の強烈な個性に職員が気づいたのがきっかけだ。既成概念にとらわれない生命力あふれる作品は、現代アートの分野から反響があった。
創作活動に打ち込むことで、乏しかった表情が生き生きとしてきたのも収穫だ。学園では障害者を「とっておきの人」と呼ぶ。隠れた能力を引き出した取り組みに注目したい。