オバマ米大統領が、イラクに駐留する十四万人超の米軍のうち戦闘任務に就いている十万人前後を来年八月末までに引き揚げると表明した。ブッシュ前政権の象徴ともいえるイラク戦争の幕引きが始まる。
大統領は昨年の大統領選で、就任後十六カ月以内の戦闘部隊撤退を公約していた。今回の表明では、公約期限の来年五月下旬より三カ月遅い引き揚げとなる。本格撤退は来年以降の見通しで、主に非戦闘任務に従事する三万五千―五万人の部隊は残すが、二〇一一年末には全面撤退する。大統領は「われわれはこの戦争を終結させる仕事に取り掛かった」と宣言した。
イラク撤退表明に伴い、今後はオバマ大統領が重視するアフガニスタンでの軍事作戦に軸足を移すことになろう。今夏までにイラク撤退部隊の一部を含む計一万七千人規模の米兵を増派する方針だ。
ブッシュ前政権が〇三年に始めたイラク戦争では、四千二百人を超える米兵の死者を出し、イラク人は多数の民間人が亡くなった。オバマ大統領は「イラクの将来は中東全体の未来と切り離せない」として、前政権が敵視したイランやシリアとの対話や、パレスチナ和平の支援によってアフガンやパキスタンの安定につなげる包括的で重層的な中東・南西アジア外交に意欲を示した。
国際社会との対話に重きを置く大統領が、力に頼る一国主義と批判されたブッシュ前政権との決別を鮮明にしたといえよう。先に議会に提出した一〇会計年度(〇九年十月―一〇年九月)の予算編成方針を示す予算教書でも、国防予算を約五千三百三十七億ドル(約五十三兆円)と、前年度比4%増にとどめた。国防総省が昨年夏に見積もった概算要求よりも9%近い削減で、前政権時代に増加を続けた「聖域」扱いの国防予算に一定の歯止めをかけた。
予算教書では、米国の温室効果ガス排出量の削減目標について二〇年までに〇五年比で約14%削減すると明示した。また、富裕層に対する現行の優遇税制打ち切りなどオバマ色を随所にちりばめている。
だが、急激な前政権からの政策転換には危うさが伴う。米軍のイラク撤退は、イラク人同士による宗派間の対立を激化させかねない。アフガン増派も、かえって反政府武装勢力タリバンの反発を強めて掃討作戦が泥沼化する恐れがある。オバマ色を定着させるには、険しい道のりを覚悟しなければなるまい。
愛知県豊橋市のウズラ農場で高病原性の鳥インフルエンザが発生した。農林水産省の調査で、ウズラ二羽から検出されたウイルスは感染力の弱い弱毒性のH7型と確認されたが、油断は禁物だ。感染拡大に万全の措置を講じなければならない。
国内の農場での鳥インフルエンザ発生は、二〇〇七年一月と二月に宮崎県と高梁市で感染が確認されて以来。H7型が国内で検出されたのは一九二五年以来、八十四年ぶりだ。人への感染の可能性は低いが、病気を持つ鳥と接触すれば呼吸器系などの病気を発症することがあるという。警戒が必要だ。
今回、鳥インフルエンザが発生した一帯は全国有数のウズラの卵の生産地である。愛知県は感染が確認された農場の消毒を行うとともに、そこから半径五キロ以内の農場に対し、感染を広げる恐れのある家禽(かきん)や卵などの移動制限を要請するなど、防疫対策を強化している。
二月二十八日には神田真秋知事が現地を視察し、感染防止策を指示した。県は発生が確認された農場が飼育している約三十二万羽のうち、ウイルスが検出されたウズラと同じ敷地内で飼育していた約二十六万羽の順次処分も開始した。迅速な対応といえよう。
ただ感染経路についてはまだ特定できていない。野鳥へ感染していれば、ウイルスの連鎖的な拡散も懸念される。防護策を強化するためにも関係機関による調査が急がれる。
農水省は、緊急立ち入り調査などで鳥インフルエンザの早期発見を徹底するよう、全都道府県に通知した。感染の再発や拡大を防ぐには、早期通報による情報公開と早期対処が欠かせない。安全が確認されるまで警戒の手を緩めることなく、封じ込めを図る必要がある。
(2009年3月1日掲載)