ミャンマー軍事政権による差別や迫害を受け、周辺各国への流出が続いている「ロヒンギャ族」。ミャンマーは自国民と認めず、タイやマレーシアなども受け入れに難色を示す。日本国内でも約200人が暮らすが、日本政府は大半を難民認定せず、一方でミャンマーが自国民と認めないため強制送還もできない「宙に浮いた」存在だ。経済危機で生活困窮に拍車がかかり、正式に就労が可能になる難民認定を強く求めている。【鵜塚健】
「食費を減らしても、もうお金がない。(マレーシアで暮らす)家族に電話できるのは週1回だけ。心が痛い」。約160人のロヒンギャ族が集まって暮らす群馬県館林市。05年12月に来日したモハマド・アユーブさん(35)は肩を落とす。
就労禁止の「仮滞在」の身分だが、生活に困り派遣会社に登録。工場で溶接の仕事をしていたが、不況で08年11月「もう来なくていい」と突然解雇された。妻と2人の子供への仕送りも途絶えた。
ロヒンギャ族の故郷は、ミャンマー西部ヤカイン州。ロヒンギャであることを理由に移動の自由や教育、仕事が制限され、軍による強制労働もあるという。アユーブさんは88年のヤンゴンでの大規模民主化デモに参加。友人4人が軍の銃撃を受け死亡、多くの仲間が逮捕された。タイからマレーシアに逃げたが、不法滞在として繰り返し拘束された。
05年12月、中国人ブローカーに約30万円払い来日。成田空港で難民申請したが「仮滞在」のまま3年以上過ぎた。
ロヒンギャ族の日本入国は、周辺国が取り締まりを厳しくした05年ごろから増え始めたが、日本政府の難民認定を受けたのは11人。在日ビルマ人難民申請弁護団の渡辺彰悟弁護士は「母国も周辺国も追い出された多くのロヒンギャ族が、日本に入国している現実を受け止めるべきだ」と、難民としての早急な保護を求める。
イスラム教徒の少数民族で、約100万人前後と推計される。ミャンマー政府は82年導入した国籍法で、国民から完全に排除。周辺各国も「経済的事情による移住目的」として流入を取り締まる。09年に入り、漂着したロヒンギャ族をタイ軍が暴行のうえ海上に放置したとして問題化。1日の東南アジア諸国連合首脳会議でもこの問題が協議されたが、具体的な対策などはまとまらなかった。
毎日新聞 2009年3月1日 20時25分(最終更新 3月1日 21時28分)