音楽業界の著作権を寡占する社団法人「日本音楽著作権協会」(JASRAC)に公正取引委員会が27日、重い処分を下した。作曲家らは「新規参入が促されることは当然」と自由競争を歓迎する。だが一方で「放送権は競争になじまない分野」と、排除措置命令の実効性に疑問の声も。JASRACは処分を不服として闘う姿勢を示しており、業界内の不協和音は続きそうだ。【若狭毅、川崎桂吾】
「この命令に不承知。公取委からの説明をよく検討したうえ、審判を請求する」。JASRACの加藤衛理事長は27日夕の記者会見で不満げに述べた。
加藤理事長は「テレビ・ラジオ局との包括契約は世界標準と言っていい。現段階でベストの方法。特に新規参入を排除しているとの公取委の判断は誤り。事実関係を徹底的に争う」と語気を強め、「審判で解決しなければ、その後のことも考えている」と訴訟も辞さない構えをみせた。
会見では▽放送事業者に他の事業者の管理著作物を利用しないよう要請する行為はしていない▽命令は放送使用料の算定について、どのような方法を採用すべきか明確にしていない▽利用された音楽著作物の割合を放送使用量に反映させるには、放送事業者の協力がなければ実行不可能--などと主張した。
一方、日本作曲家協議会の小林亜星会長は「新規参入が促されることは当然で、JASRACは命令に従うべきだ」と歓迎する。公取委が立ち入り検査した昨年4月以降、協議会はJASRACに説明を求めてきたが、正式な報告はなかったという。小林さんは「もっと積極的に情報を公開すべきだ」とJASRACの姿勢に注文をつけた。
JASRACを監督する文化庁は「評価する立場にはない」が正式コメント。しかし、文化庁幹部は「問題を指摘しながら『後はお前らで考えろ』という内容」と困惑気味に話した。また「録音やネット配信と違い、管理に膨大なコストがかかる放送権は競争になじまない。排除命令を出したところで新規参入を促すことは難しいのでは」と疑問を呈した。
当事者の放送事業者、レコード会社は静観の構えだ。NHKは「JASRACの対応を当面見守る。必要があれば適切に対応する」とコメント。日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日相談役)は「民放にも多大な影響が及ぶ。命令の内容について十分検討したうえで、JASRACなどと協議したい」とコメントを出した。レコード会社は一様に「コメントする立場にない」などと述べた。
JASRACは、排除措置命令に不服がある場合、公取委に審判を請求できる。JASRACと公取委が互いに主張を述べ合い、審判官(公取委職員)が▽命令取り消し▽変更▽請求棄却--などの審決を出す。審決に不服がある場合、東京高裁に審決取り消し訴訟を起こすことになる。審判・裁判終結まで命令の執行を免れたい場合は、東京高裁に「執行免除の申し立て」を行う。
JASRACと放送局側との間で約30年続いた慣行に公取委が排除措置命令を出した背景には、後発業者参入が阻害された現実がある。
公取委幹部によると、後発業者「イーライセンス」(東京都港区)が06年10月、人気歌手・大塚愛さんの新曲「恋愛写真」や倖田來未さんの曲など67曲の著作権管理契約に成功した。だが追加支出を嫌った放送局側が曲を流さず、06年12月末まで使用料を無料にせざるを得なかった。放送されないとCD売り上げにも響きかねないからだ。無料期間が終わると、放送回数の激減が予想されるため、イー社は同12月、レコード会社から契約を解除されてしまった。
努力してもガリバーに踏みつぶされる現実。公取委が厳しい態度で臨んだ理由はそこにある。ただ現在の契約手法自体は違法と認定されておらず、事態が改善されるかどうかは不透明だ。JASRACや放送局側がどのような姿勢で臨むのかにかかっていると言えよう。【苅田伸宏】
毎日新聞 2009年2月27日 21時20分(最終更新 2月27日 21時52分)