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黒川文雄のサブカル黙示録:オタクコンテンツの海外事情 独の一番人気はGackt

日本のフィギュアが並べられた米国のショップ「JUNGLE」の様子
日本のフィギュアが並べられた米国のショップ「JUNGLE」の様子

 既に伝えた通り、ドイツで開かれた「第60回ニュルンベルク国際玩具見本市」に行ってきた。イベント自体の内容や個人的な印象は前々回からのコラムでご確認いただきたいが、今回は海外での日本のアニメやゲームといったオタク系コンテンツに関しての市場性などに触れてみたい。

 08年末、アメリカ、ロサンゼルスでのこと。ご存知だろうが、ロスにはジャパンタウンがあり、その中心地点に「JUNGLE」(本店は大阪・日本橋)という有名なオタク系コンテンツショップがある。店舗としては大きな規模で150平方メートルくらいのスペースにぎっしりとディスプレーされた商品が圧巻で、入り口から右側のウインドディスプレーの中には、既に日本で購入が不可能になってしまったアイテムが並ぶ。オーナーに聞くと、貴重なアイテムは日本のヤフオクなどで落札したり、マニア持込の買取によって確保しているという。売れているわけではないが、ある種のミュージアム的な展示と思われる。一番の売れセンはフィギュアやアニメ系DVD、コミックス(英語版)とのことである。

 特にフィギュアに関しては日本のそれはディテールや完成度が高く、彩色も素晴らしいという評価もあり、依然として人気のアイテムだ。しかし、アメリカでもマニア向けであるということには変わりは無く、市場としては大きなものではないらしい。現にちょうど僕が訪問した夜に「時をかける少女」のアメリカ版DVDの発売日で、販売イベントを夕方(日本では開店と同時が通例だが、アメリカは夜にやるらしい)から開催していたが、閑散としていたことが印象的だった。

 さて、ヨーロッパはどうであろうか? 同じく昨年末に訪問したイタリアだが、まず売り場自体が非常に少ないと思われた。規模的にはアメリカの10分の1くらいの印象。ローマ市内にオタク系コンテンツショップがあったが、一番の売れセンは日本のマンガが中心であった。フィギュアは品ぞろえが少なく、充実しているとは言えなかった。むしろボードゲームなどの品揃えを充実したショップのほうが多く、ここでは日本市場とのギャップを感じた。

 そしてドイツ。ここにはオタク系カルチャーは無いかもしれないと思わせたのが、先の「国際玩具見本市」での展示だ。なにしろ、この展示にはオタクを感じさせるものが皆無に等しかったからである。しかし、繁華街のローレンツ広場をすこし外れたところに、5階建ての大きなビルで、アニメ、ゲーム系ショップがあるのを見つけた。日本のイメージで言えば「原宿のキディランド」。しかし、品ぞろえはほとんどがアメコミ系コンテンツと日本のオタク系コンテンツ。驚いたことに日本ではやっているものと同じものがそろっていることである。さっそくショップスタッフに英語で話してみる。

 「日本のコンテンツってどう?」

 「ドイツでもとっても受けてる」

 「ちなみに売れセンは?」

 「フィギュアとアニメDVD、それと遊戯王とポケモンカードね」

 「仕入れは? 直接日本で買ってくるの?」

 「うーん、半分半分ね。日本でじかに買ってくることもあるけど、ドイツ国内代理店から買うことも多いね」

 「ドイツのオタクの年齢層はどうなの?」

 「ひとつひとつの値段が高めだから結構オトナが多いネ」

 日本と同じようだが、実はダメなものがある。それは肌を過剰に露出したキャラクターや、コンテンツである。それはやはりキリスト教などの宗教的な戒めから来るもので、同じことはアラブ首長国連邦のドバイの展示会でも同じだ。水着系のキャラや極端に肌を露出したものは一般には受け入れがたいようだ。ゆえに、かなり自主規制をしていると思っていいだろう。つまり、チャイルド・ポルノ、ロリコンとしても見られかねないものに関して、日本は緩いということだ。ニュルンベルグで見学できたのは市内繁華街のショップゆえに正等派。よって、どこかには地下ビジネス的なオタク系ショップもかならず存在するのだろうと思う。

 ちなみに店内で一番気になったのは日本のビジュアル系バンドの人気だ。日本のビジュアル系ロック雑誌が店頭で販売されているのである。個人的にはビジュアル系バンドのルーツは「ドイツ系メタルバンド」「デスメタル系バンド」のメイクアップやコスチュームにその源流があるのではないかと思った。

 お店のスタッフいわく「ドイツでは、日本のビジュアル系バンド、一番人気はGackt、日本のゴスロリ系ファッションが一部の若者に支持されている」とのこと。うーん、そういえば、日本とドイツの親和性ってありそうな気がする。ビジュアル系バンドの様式美って、過去のミリタリー系のゴシックなルーツを感じるファッションではないだろうか。できれば、平和な時代が続いてほしいと思うので「オタク三国同盟」を結んでみてはどうかと思った。

 日本を離れドイツで思ったことは、それぞれの地で生まれたものが、ぐるぐると世界中を回って、はるか極東の日本にたどり着き、そしてそれがまた世界に輸出され人気を博しているという。コンテンツの循環、流転はかくあるべしという見本だ。

◇筆者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年5月に退任。現在はブシロード副社長。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくす。

2009年3月1日

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